AI概要
【事案の概要】 令和元年7月施行の第25回参議院議員通常選挙に際し、広島県選挙区から立候補した妻Bの当選を得しめる目的で、現職衆議院議員であった被告人が大規模な選挙買収を行った公職選挙法違反の事案である。被告人は、Bと共謀の上、広島県内の政治家ら4名に対し、Bへの投票及び投票取りまとめなどの選挙運動の報酬として現金を供与するとともに事前運動をし(第1)、単独で広島県内の政治家ら96名に対し同様の趣旨で現金を供与するとともに事前運動をし(第2の1)、さらにBの選挙運動を総括主宰した者として8名に対し現金を供与した(第2の2)。供与の相手方は広島県全域にわたる地方議員、後援会員、事務所スタッフら合計100名に及び、平成31年3月下旬から令和元年8月1日までの約4か月間に、前後124回にわたり総額約2871万円もの現金が供与された。当時の広島県選挙区は定数2名で、現職の有力参議院議員がいる中でBが新たに立候補するという厳しい選挙情勢にあった。 【争点】 主な争点は、(1)一部の相手方(6名)に対する現金供与が選挙買収の趣旨であったか、(2)被告人が主張する買収の相手方が異なる2名(C19及びC20)について誰に対する買収であったか、(3)Bとの共謀の有無、(4)被告人の総括主宰者該当性、(5)公訴権濫用による公訴棄却の可否であった。また、一部の相手方に渡した現金の額についても争いがあった。 【判旨(量刑)】 裁判所は、選挙情勢、現金授受の時期、規模、相手方の属性・立場、金額等を総合考慮し、すべての現金授受が選挙買収であったと認定した。買収の趣旨が争われた6名についても、現金授受の状況や相手方の立場等から買収目的を認めた。C19及びC20については、両名の供述の信用性を認め、被告人がそれぞれ本人を買収する意図で現金を供与したと認定した。被告人が作成・所持していた「リスト」及び「名簿」の記載内容から、Bとの共謀及び総括主宰者該当性も認めた。公訴権濫用の主張については、受供与者が起訴されていないとしても本件起訴が訴追裁量権を逸脱するとはいえないとして排斥した。量刑については、本件が民主主義の根幹である選挙の公正を著しく害する極めて悪質な犯行であり、同種の選挙買収事案の中でも際立って重い部類に属するとした上で、犯行後の証拠隠滅行為も考慮し、被告人を懲役3年の実刑に処した(求刑懲役4年)。なお、供与額の一部について、C11への供与額を起訴の50万円から30万円に、C12への供与額を20万円から10万円にそれぞれ縮小認定し、130万円の追徴を命じた。