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【事案の概要】 映画製作会社である原告は、映画「宮本から君へ」について、独立行政法人日本芸術文化振興会(被告)の芸術文化振興基金から助成金1000万円の交付内定を受けていた。ところが、同映画の出演俳優の1人が麻薬及び向精神薬取締法違反により有罪判決(懲役1年6月・執行猶予3年)を受けたことを理由に、被告理事長は令和元年7月10日付けで助成金を交付しない旨の決定(本件処分)をした。不交付の理由は「有罪が確定した者が出演する映画に国の事業による助成金を交付することは公益性の観点から適当ではない」というものであった。なお、当該俳優が演じた役は主役ではなく、全129分中約11分の出演にとどまるものであった。原告は、本件処分は裁量権の逸脱・濫用に当たり違法であるとして、その取消しを求めて提訴した。 【争点】 被告理事長が、交付内定を受けた原告に対し助成金を交付しないとした本件処分につき、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法が認められるか。具体的には、(1)出演者の有罪判決を理由とする不交付決定が本件要綱の定めや仕組みに照らし許容されるか、(2)公益性(薬物乱用の防止)を根拠に不交付とすることに合理的理由があるか、(3)本件処分により原告に生じる不利益の程度が問題となった。 【判旨】 請求認容(不交付決定を取消し)。裁判所は、まず判断枠組みとして、振興会法が助成金交付に関する裁量を被告理事長に委ねているものの、本件要綱は交付内定に当たり基金運営委員会の議を経ることとし、芸術的観点からの専門的知見に基づく判断を尊重する仕組みを設けていることを指摘した。その上で、公益性を理由に不交付決定をする場合には、公益の内容、助成金交付により公益が害される態様・程度、不交付決定により芸術団体に生じる不利益の内容・程度等を総合考慮し、上記仕組みを踏まえてもなお助成金を交付しないことを相当とする合理的理由があるか否かを検討すべきとした。公益侵害の点では、助成金は映画製作主体に交付されるものであって出演者に交付されるものではなく、当該俳優の出演場面は全体の約11分にすぎず主要キャストにも当たらないことから、助成金交付により「国は薬物乱用に寛容である」との誤ったメッセージが広まるおそれは認められないとした。被告が提出したアンケート調査も、質問が「メインキャストの1人」を前提としており実態と齟齬がある等として採用しなかった。他方、原告の不利益については、1000万円の助成金は製作予算に占める割合が小さくなく、経済的影響のほか、助成金を受けるために意に沿わない再撮影等を強いられれば芸術団体の自主性が損なわれる点も看過できないとした。以上を総合し、本件処分には合理的理由がなく、裁量権の逸脱・濫用に当たり違法であると判断した。