AI概要
【事案の概要】 東京女子医科大学病院において、満2歳の男児Cが頸部嚢胞性リンパ管腫に対するOK-432嚢胞内注入療法(硬化療法)を受けた後、中央ICUで人工呼吸管理中の鎮静のため、小児への集中治療における使用が禁忌とされているプロポフォールを約70時間にわたり高用量(6mg/kg/hr以上、最大11mg/kg/hr)で持続投与された結果、術後3日目にプロポフォール注入症候群(PRIS)を発症し、横紋筋融解症、高CK血症、不整脈、心不全等を呈して死亡した。Cの両親である原告らが、耳鼻咽喉科医師(被告D・E)、麻酔科医師(被告F・G・H・J)及び看護師(被告I)に対し、説明義務違反、鎮静薬選択の過失、プロポフォールの使用量・使用時間に関する過失、早期診断・治療の過失、補液量の過失及び試験的投与の故意による不法行為を主張して、不法行為に基づく損害賠償を請求した。病院を運営する学校法人(参加人)は独立当事者参加し、損害賠償債務の不存在確認を求めた。 【争点】 主な争点は、①耳鼻咽喉科医師の説明義務違反の有無、②プロポフォールを使用したこと自体の過失の有無、③プロポフォールの使用量・使用時間に関する過失の有無、④早期診断・治療に関する過失の有無、⑤補液量に関する過失の有無、⑥プロポフォールの試験的投薬(故意の不法行為)の有無、⑦損害額、⑧参加人の弁済供託の効力である。 【判旨】 裁判所は、まず耳鼻咽喉科医師(被告D・E)について、術後に麻酔薬による鎮静が長期に及ぶ可能性とそれに伴う危険性を原告らに説明すべき義務があったにもかかわらず、気管切開の説明に終始しこれを怠った説明義務違反を認定した。原告らが以前に鎮静を理由にMRI検査を拒否した経緯等から、適切な説明があれば施術を受けさせなかった蓋然性が高いとして因果関係も認めた。次に麻酔科医師ら(被告J・G・H)について、プロポフォールの小児への使用が禁忌とされた臨床的裏付けに照らし、医学的に合目的的な理由なく使用することは許されないとした上で、被告Jが使用量・使用時間を検討せず漫然と選択した点、被告Gが過量の初期設定(6mg/kg/hr)を行った点、被告Hが増量・ボーラス投与を繰り返し他剤への変更を検討しなかった点について注意義務違反を認め、プロポフォール投与とCの死亡との間に高度の蓋然性があるとして因果関係を肯定した。他方、看護師(被告I)は医師の指示に基づく増量であったとして過失を否定し、麻酔科主任教授(被告F)についても試験的投与を指示した事実は認められないとした。損害額は、逸失利益約2230万円、死亡慰謝料2500万円等を合わせ、原告Aにつき約3135万円、原告Bにつき約2931万円と算定した。もっとも、参加人が既に各5000万円を供託しており、これにより被告ら及び参加人の損害賠償債務は全て消滅したとして、原告らの請求をいずれも棄却し、参加人の債務不存在確認請求を認容した。