AI概要
【事案の概要】 訪問介護サービス会社でヘルパーとして勤務していた被告人が、自らの生活に嫌気がさしていたところ、適応障害に相当する状態の影響を受け、訪問介護の利用者である被害者(当時78歳)を殺害した事案である。被告人は、令和2年3月頃から突然保育園を開設したいと言い出して退職を申し出たり、妻に唐突に離婚を求めて自宅を出たりするなど、それまでには見られなかった衝動的かつ奇異な行動を繰り返していた。犯行当日の午前7時台、被害者方に向かう途中で被害者を殺すしかないと考え、スマートフォンで絞殺の方法を調べた上、滑り止め付きの手袋を着用し、自身のネクタイを使って、筋萎縮性側索硬化症(ALS)により体を動かせない状態の被害者の首を約5分間絞め付け、窒息死させた。被告人は犯行の約1時間後に交番に自首した。 【争点】 弁護人は、被告人が犯行当時心神耗弱の状態にあったと主張した。精神鑑定を行ったD医師は、被告人が犯行当時「適応障害に相当する状態」にあったが、それは重篤な精神障害ではなく軽度の精神障害の範囲であると判断した。弁護人はD医師の鑑定の信頼性を争い、適応障害以外の精神障害の可能性や、適応障害が重篤であった可能性を指摘したが、裁判所はD医師の判断を信用できるとした。また、被告人が述べた殺害の動機は、仕事や家庭への不満、被害者への嫉妬、遺族に憎まれたい、被害者を楽にしてあげたい、死刑になりたいなど多岐にわたり、統一的・合理的に説明することは困難であった。裁判所は、適応障害に相当する状態が犯行を決意する際に促進的な影響を与えたことは認めつつも、犯行は合目的的で一貫した行動であり、違法性の認識もあったことから、完全責任能力を認定した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、被告人が被害者を保護すべきヘルパーの立場にありながら、全く落ち度のない被害者を殺害した点に酌量の余地はないとした。犯行態様についても、抵抗できないALS患者を対象とした結果実現の危険性が高い悪質なものと評価した。一方で、適応障害に相当する状態が犯行に促進的な影響を与えた点を有利に考慮し、同種事案の中ではやや重くない方の部類に属するとした。犯罪事実以外の事情として、自首したこと、逮捕後から一貫して事実を認めていること、謝罪文を作成するなど一定の反省が認められること、妻と姉が出所後の監督意思を有すること、前科前歴がないことを考慮し、求刑懲役14年に対し、懲役13年を言い渡した。