AI概要
【事案の概要】 破産者Aは、北海道千歳市内の土地建物を購入してサービス付き高齢者住宅の運営・介護事業を計画し、被告銀行から平成24年に4500万円、平成25年に1億400万円の融資を受けた。しかし、融資から1年も経たない平成26年10月に弁護士に債務整理を委任し、受任通知が被告に送付された。平成27年10月、Aの代理人弁護士は、介護事業用の不動産(根抵当権付き)を4500万円で第三者に任意売却し、売却代金から破産申立費用等を控除した3783万円余りを被告に弁済した。その後、平成28年10月13日、Aは当該不動産に掛けられていた住居建物総合保険の解約返戻金43万6350円を被告に弁済した(本件弁済)。Aは平成30年12月に破産手続開始を申し立て、令和元年12月に破産手続開始決定を受けた。 本件は、Aの破産管財人である原告が、本件弁済は支払不能後の偏頗弁済であるとして、破産法162条1項1号イに基づき否認権を行使し、弁済金43万6350円及び商事法定利率年6分の利息の支払を求めた事案である。 【争点】 ①本件弁済時点で被告がAの支払不能について悪意であったか、②破産法166条(支払停止を要件とする否認権行使の時期的制限)の類推適用の可否が争われた。被告は、Aが歯科医師として稼働能力があり支払不能とは認識していなかったと主張するとともに、破産法166条の趣旨は支払不能の場合にも類推適用されるべきであり、破産手続開始申立日から1年以上前の弁済に対する否認権行使は制限されるべきだと主張した。 【判旨】 裁判所は、原告の請求を全部認容した。争点①について、介護事業が不動産売却時点で既に破綻しており、弁護士による債務整理が進められ、売却代金から破産申立費用の控除が前提となっていたこと、その後にAの資力回復を窺わせる事情がないことから、本件弁済時点でAは客観的に支払不能の状態にあり、被告もこれを認識していた(悪意)と認定した。被告がAの歯科医師としての稼働能力を主張した点については、1億400万円もの融資を受けてから1年足らずで債務整理に至り、3783万円余りを弁済してもなお相当額の債務が残存していたことから、稼働により一般的・継続的に弁済できる資力があったとは認められないとした。争点②について、支払停止は一回的行為であり支払不能の徴表として不確実であるからこそ破産法166条が時期的制限を設けたのであって、支払不能は弁済能力の欠乏という客観的状態であるから、悪意の債権者に対し破産手続開始申立日から1年以上遡って否認を認めても取引の安全を不当に害しないとして、類推適用を否定した。