AI概要
【事案の概要】 平成13年7月、札幌市内の交差点において、原告(当時20代女性)が運転する自転車と、被告Bが運転する普通乗用自動車が接触し、原告が転倒した交通事故に関する損害賠償請求事件である。事故自体は比較的軽微で、救急要請や警察への通報もされず、被告車にも損傷はなかった。原告は頭部打撲、左手関節捻挫、左大腿部打撲の傷害を負い、整形外科に約2週間通院して治療を終えた。 ところが事故から約46日後、原告は突然発熱・腹部痛を発症し、左後腹膜にリンパ液が貯留していることが判明した。その後、3回にわたる開腹手術でリンパ管の結紮が行われたが症状は改善せず、平成23年頃からはリンパ嚢腫の自然破裂による大量のリンパ液漏出が生じ、オムツの着用を余儀なくされるなど、深刻な後遺障害が残った。原告は、事故による外傷性リンパ管損傷が原因であるとして、被告Bに対し民法709条又は自賠法3条に基づき、被告A(車両所有者)に対し自賠法3条に基づき、連帯して約1億7256万円の損害賠償を求めた。なお、被告らは当初、事故と後遺障害の因果関係を認めていたが、訴訟提起から約2年後にこれを撤回した。 【争点】 主な争点は、(1)原告の後遺障害(リンパ管損傷に伴うリンパ管閉塞、リンパ嚢腫、腸管癒着障害等)と本件事故との因果関係の有無、(2)過失相殺の可否及び割合、(3)各損害項目の当否、(4)素因減額の可否である。原告は、事故で自転車のハンドル等が腹部に当たりリンパ管が損傷したと主張した。被告らは、リンパ管損傷自体が確認されていないこと、軽微な事故でリンパ管のみが損傷することは医学的に考え難いこと、発症が事故から46日後であること等を指摘し、因果関係を争った。 【判旨】 裁判所は、本件事故と後遺障害との因果関係を否定し、原告の請求を棄却した。その理由として、第一に、2回の開腹手術でもリンパ管の損傷部位は確認できておらず、原告が根拠とするMRI画像も事故から10年以上経過し3度の手術後のものであって、事故当時のリンパ管の状態を確認することは不可能ないし著しく困難であるとした。第二に、事故態様が軽微であり、原告は事故後に腹部の痛みを訴えておらず、保険会社担当者にハンドルで腹部を打っていないと述べていたこと、深部にあるリンパ管のみが他の器官を傷つけずに損傷することは医学的に考え難いことを指摘した。第三に、事故から46日後の発症について合理的説明がないとした。さらに、被告らが主張する別の機序(リンパ管の加齢による機能低下や狭窄に起因するリンパ液うっ滞)の方が、手術で確認された所見や結紮後も症状が改善しない経過と符合すると判断した。結果として、事故と因果関係のある損害は事故直後の通院慰謝料10万円にとどまり、既払金で全額填補済みであるとして、請求を全部棄却した。