AI概要
【事案の概要】 原告は、被告(医療法人社団)が運営する介護老人保健施設のデイケア部門で介護職員として勤務していた女性である。平成30年12月末にデイケア部門が休止されたことに伴い、被告は原告に対し、それまで存在しなかった「庶務課」への異動を命じた(第1配転命令)。庶務課の事務室は施設外のアパートの一室に新設され、室内には3台の監視カメラが内側に向けて設置されていた。原告はそこで1人、雑誌の要約やパンフレット作成などの業務に従事させられた。原告はこの環境により適応障害・うつ状態を発症し、病気休職した。その後、被告は原告を入所部門(3階)へ異動させる第3配転命令を発したが、入所部門は夜勤・土日祝日勤務を含む勤務形態であった。原告は、第3配転命令は無効であると主張して3階で勤務する義務のないことの確認を求めるとともに、一連のパワーハラスメントによる損害賠償(慰謝料等166万4201円)及び被告が労務受領を拒絶していることに基づく未払賃金等の支払を求めて提訴した。 【争点】 主な争点は、(1)第3配転命令の有効性(職種限定契約違反の有無及び権利濫用の成否)、(2)未払賃金等の請求の可否、(3)被告の一連の行為がパワーハラスメントとして不法行為に該当するか、(4)不法行為による損害額であった。特に、第3配転命令に業務上の必要性があったか、不当な動機・目的によるものであったかが中心的に争われた。 【判旨】 裁判所は、原告の請求をすべて認容した。まず、第3配転命令の権利濫用について、デイケア部門の再開に向けた求人や職員採用が進んでいた時期に、採用以来デイケア部門で勤務してきた原告をあえて入所部門に配属させる業務上の必要性は認められないと判断した。被告が主張した「デイケア部門を介護福祉士限定とする方針」についても、資格を限定しない求人が併存していたことなどから、第3配転命令時点で確定していたとは認められないとした。不当な動機・目的については、先行する第1配転命令が、施設外のアパートに原告を1人で隔離し、監視カメラで監視しながら必要性の乏しい業務をさせるという異様なものであったことを認定し、不当な動機・目的によるものと認めた上で、第3配転命令もこの延長線上にあり、原告の希望する勤務先への異動が可能であったのにあえて夜勤を含む入所部門へ異動させたものであるとして、退職に追い込む目的等の不当な動機・目的が認められると判断した。未払賃金については、第3配転命令が無効である以上、原告がデイケア部門での労務を提供できないのは被告が受領を拒絶しているためであるとして、民法536条2項に基づく賃金請求権を認めた。不法行為についても、配転命令の撤回と再発令の経緯、根拠のない懲戒処分、「死亡事故が発生する」との暴言、第1配転命令による隔離等の一連の行為は違法であるとし、慰謝料100万円を含む損害賠償166万4201円の請求を認容した。