AI概要
【事案の概要】 小説執筆業を営む原告が、電気通信事業を営む被告(ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社)に対し、発信者情報の開示を求めた事案である。原告は、自身が執筆した小説を原作とする漫画「魔王の始め方 THE COMIC」の著作権者であるところ、氏名不詳者がビットトレント(BitTorrent)方式のP2Pソフトを利用して、同漫画の電子データを被告の提供するインターネット接続サービスを通じて不特定多数者と共有し、公衆送信していたと主張した。原告訴訟代理人弁護士は、令和2年7月27日、ビットトレントを実装したクライアント・ソフトウェアを利用して本件データをダウンロードし、ダウンロード元のIPアドレスを特定する調査を行った。原告は、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)4条1項に基づき、氏名不詳者に対する損害賠償請求権の行使のため、被告が保有する発信者の氏名・住所等の開示を求めた。 【争点】 主な争点は、①権利侵害の明白性と②発信者情報開示を受けるべき正当理由の有無の2点である。争点①について、被告は、原告がビットトレントを用いてIPアドレスを特定した方法について技術的な根拠が主張されておらず信用性に疑義があるとして、侵害情報に係る通信記録であることが明らかとはいえないと争った。これに対し原告は、ビットトレントは違法共有防止のため意図的に匿名性が排除された設計であること、同様の調査方法による過去の開示請求で発信者の取り違えが生じた事例は一切ないことを主張した。 【判旨】 請求認容。裁判所は、ビットトレントの仕組みについて、ファイルをダウンロードした端末がピアとしてネットワーク上に登録され、別のピアからの要求に応じてファイルを自動送信する仕組みであること、他の多くのP2Pソフトと異なりIPアドレスレベルでの匿名性・秘匿性がなく、どのIPアドレスの端末がどのファイルを所持・提供しているかを誰でも容易に知ることができることを認定した。その上で、原告代理人がビットトレントを利用して本件データをダウンロードした際に本件各IPアドレスの使用者による共有の事実を確認したことなどを併せ考慮し、各IPアドレスの使用者が本件データを自己の端末にダウンロードして記録させ、不特定多数のピアからの要求に応じて自動送信し得る状態にしていたと認定した。これにより、原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかであると判断し(著作権法23条、28条)、損害賠償請求権行使のための正当理由も認めて、発信者情報の開示を命じた。