AI概要
【事案の概要】 被告人は、令和2年6月、名古屋市内の自宅において、知人の甲に対し覚醒剤約0.8グラムを代金後払いの約束で譲り渡したほか(第1)、同月中旬頃から23日までの間に愛知県内又はその周辺で覚醒剤を自己使用し(第2)、同月23日に自宅で覚醒剤合計約12.5グラムを所持した(第3)として起訴された。被告人は、第1の覚醒剤有償譲渡について、覚醒剤は匿名の密売人Aのものであり自分は一時的に保管していたに過ぎないとして無罪を主張した。また、第2の自己使用について、捜索時に警察官が使用済み注射器を捏造して被告人に示したという重大な違法捜査があり、その過程で収集された尿の鑑定書等は違法収集証拠として排除されるべきであると主張した。 【争点】 第1の争点は、被告人が覚醒剤の「譲渡人」に該当するか否かである。被告人は、密売人Aから預かった覚醒剤を甲のために一時保管していたに過ぎず、甲は自分の覚醒剤を持ち帰っただけであると主張した。第2の争点は、警察官の捜査に重大な違法があり、尿の鑑定書が違法収集証拠として排除されるべきか否かである。被告人は、6月23日の捜索時に警察官から使用済み注射器が出たと虚偽の発言をされ、これにより覚醒剤使用を前提とした捜査に協力してしまったと主張した。さらに、検察官は甲が勾留中の被告人に差し入れた現金3万円が薬物犯罪収益に当たるとして没収を求めた。 【判旨(量刑)】 裁判所は、第1について、覚醒剤取締法の「譲り渡し」とは相手方に事実上の処分権限を与え支配を移転させることで足りると解した上、10グラム以上の覚醒剤は被告人が単身生活する自宅で被告人の事実上の支配下にあり、甲に対して小分けした覚醒剤を持ち帰らせた被告人こそが処分権限を与えた者であるとして、有償譲渡罪の成立を認めた。他方、甲が差し入れた現金3万円については、甲の供述に曖昧不自然な点が多く、覚醒剤購入代金の支払の趣旨であったとは認められないとして、薬物犯罪収益としての没収請求を退けた。第2について、7月8日の再捜索で発見された由来不明の注射器から覚醒剤成分が検出されなかったにもかかわらず被告人が注射器で覚醒剤を使用した旨の捜査報告書が作成されていたこと、同報告書を作成した乙警察官が証人出廷予定日の直前に自殺したことなどから、捜査過程に警察官の作為が介在した疑いは払拭できないとした。しかし、6月23日の捜索時点では覚醒剤が既に発見されており、警察官が虚偽の言動をする必然性は乏しく、被告人も素直に尿を提出した経緯があるとして、尿提出に至るまでの過程自体には重大な違法はないと判断し、鑑定書の証拠能力を肯定した。ただし、捜査過程の疑義を踏まえ、被告人の検察官調書の信用性を慎重に判断し、主位的訴因(特定の日時・場所・方法による使用)ではなく予備的訴因で事実認定を行った。量刑については、所持した覚醒剤が相当量に上り社会への悪影響が大きいこと等を考慮しつつ、前回の覚醒剤事犯の服役終了から25年以上経過していること、長期間の勾留による社会的制裁等を総合し、懲役3年・執行猶予5年を言い渡した。