AI概要
【事案の概要】 被告(健栄製薬株式会社)は、「ヒルドソフト」(標準文字)を第5類「薬剤」を指定商品として商標登録した(登録第6178215号)。これに対し、原告(マルホ株式会社)は、自社が保有する「Hirudoid」(引用商標1)及び「ヒルドイド」(引用商標2)の各商標権に基づき、本件商標の登録無効審判を請求した。原告は、ヘパリン類似物質を有効成分とする血行促進・皮膚保湿剤「ヒルドイド」を1954年から製造販売しており、年間約420億〜520億円の売上を誇る著名な医療用医薬品である。特許庁は「本件審判の請求は成り立たない」との審決をしたため、原告がその取消しを求めて本件訴訟を提起した。 【争点】 (1) 本件商標「ヒルドソフト」が引用商標「Hirudoid」「ヒルドイド」と類似する商標であり、商標法4条1項11号に該当するか。 (2) 本件商標の使用により原告の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあり、同項15号に該当するか。 原告は、「ヒルドソフト」のうち「ソフト」は薬剤分野で品質表示的に使用されており識別力が弱いため、要部は「ヒルド」であり、引用商標と称呼・外観において類似すると主張した。また、医薬品の取り違え事例では語頭3文字が共通する場合の誤認混同が最も多いとの統計データを援用した。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、原告の請求を棄却した。 争点(1)につき、裁判所は、薬剤分野における「ソフト」の使用例を検討し、「○○ソフト」において「○○」のみが識別機能を有し「ソフト」の識別機能が弱いとまでは必ずしもいえないと判断した。本件商標は隙間なく同大同書で横書きされており、「ヒルド」の文字部分だけが独立して注意をひく構成ではないから、分離観察は相当でないとした。その上で、本件商標「ヒルドソフト」と引用商標「ヒルドイド」は、外観・称呼いずれにおいても明確に区別でき、非類似の商標であると結論づけた。医薬品の取り違え事例についても、調査対象薬局8244軒からの報告5399件のうち語頭3文字共通による事例は153件(約2.8%)にすぎず、薬剤師が通常の注意力をもってすれば日常的に取り違えが生じているとは認められないとし、名称類似による取り違えは商標の分野ではなく医療行政の規制の問題であるとも付言した。 争点(2)につき、裁判所は、仮に原告使用商標が周知著名であるとしても、「ヒルドイド」又は「Hirudoid」として認知されているのであって「ヒルド」として認知されているわけではなく、語頭3文字に略して取引されている実情も認められないとした。一般消費者を含む需要者が通常払う注意力を基準としても、本件商標から原告使用商標を連想・想起して出所混同が生じるおそれがあるとはいえないと判断し、15号該当性も否定した。