AI概要
【事案の概要】 本件は、内閣が平成26年7月1日に集団的自衛権の行使を容認する閣議決定(いわゆる7.1閣議決定)を行い、これに基づき平成27年に平和安全法制関連2法(平和安全法制整備法及び国際平和支援法)が成立したことについて、原告らが、これらの一連の行為により平和的生存権、人格権(平穏生活権)及び憲法改正国民投票権が侵害されたと主張して、国家賠償法1条1項に基づき、被告(国)に対して各10万円の慰謝料及び遅延損害金の支払を求めた事案である。 平和安全法制関連2法は、存立危機事態における集団的自衛権の行使を可能とする自衛隊法の改正、後方支援活動の地理的制限の緩和と弾薬提供等の許容、PKO活動における駆け付け警護の新設、外国軍隊の武器等防護のための武器使用の容認など、従来の安全保障法制を大きく変容させる内容を含むものであった。原告らは、これらの法整備がいずれも憲法9条に違反し、憲法秩序を破壊するものであると主張した。全国各地で同種訴訟が提起されたいわゆる安保法制違憲訴訟の一つである。 【争点】 主な争点は、(1)平和安全法制関連2法の違憲性、(2)原告らの権利利益侵害の有無、(3)損害の有無である。原告らは、集団的自衛権の行使容認は確立された憲法9条解釈の核心部分を否定するもので違憲であること、後方支援活動の拡大は武力行使との一体化にあたること、駆け付け警護は憲法9条1項が禁止する武力の行使そのものであること等を主張した。さらに、憲法の基本原理を変容させる法律を制定するにあたり憲法改正の発議をしなかった国会議員の不作為により国民投票権が侵害されたとも主張した。被告は、原告らの主張する権利はいずれも国賠法上保護される具体的権利に当たらず、権利侵害がない以上、違憲性の判断に立ち入る必要はないと反論した。 【判旨】 請求棄却。裁判所は、平和安全法制関連2法の違憲性の判断には立ち入らず、原告らの具体的な権利利益の侵害の有無を先に検討した。 人格権(平穏生活権)の侵害について、裁判所は、原告らの主張する憲法秩序が維持される権利や憲法秩序回復請求権は具体的内容が不明確であり、違憲の立法がされれば直ちに個人の具体的権利が侵害されるとする帰結は抽象的違憲審査を認めるのと異ならず、付随的違憲審査制を採る我が国の司法制度と整合しないとした。また、北朝鮮のミサイル攻撃による具体的危険についても、法律の成立により直ちに戦争に巻き込まれる具体的危険が生じたとはいえないとして退けた。 平和的生存権については、その具体的内容が不明確であり、中心的根拠とされる憲法9条は統治機構に関する規範であって国民の私法上の権利を直接保障したものではなく、憲法前文も崇高な理想と目的を表明したものにすぎないとして、具体的権利性を否定した。 国民投票権の侵害については、法律の制定によって憲法の内容や効力に影響を与えることはなく、憲法9条が改正されたわけではない以上、改正発議義務違反が問題となる余地はないとして、原告らの主張を退けた。