医療を受けさせるために入院をさせる旨の決定に対する抗告の決定に対する再抗告事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 対象者は、同棲相手の腹部を包丁で突き刺し、加療約82日間を要する右腎損傷等の傷害を負わせた。対象者は傷害罪で起訴され、本件行為当時、代謝性脳症による意識障害及び飲酒によるアルコール酩酊のため心神耗弱の状態にあったと認定され、懲役3年・執行猶予5年の判決が確定した。その後、検察官が心神喪失者等医療観察法33条1項に基づく申立てを行い、原々審(横浜地裁)は対象者にアルコール依存等の精神障害があり、医療を任意に委ねれば飲酒を再開して同様の他害行為に及ぶ具体的可能性があるとして、入院決定をした。これに対し対象者が抗告し、原審(東京高裁)は原々決定を取り消して差し戻した。 【争点】 アルコール依存が医療観察法による医療の対象となるか、また、鑑定が治療可能性に消極的な評価をしている中で入院決定をすることの当否が争われた。原審は、(1)アルコール依存は対象行為時の精神障害(酩酊状態・代謝性脳症)の原因疾患にすぎず、精神障害そのものには当たらない、(2)アルコール依存はそれ自体として医療観察法に基づく医療の対象とならない、(3)入院決定は治療可能性が認められる場合に行うべきであり、その有無を見極めるために行うべきではない、として原々決定に重大な事実誤認があると判断した。 【判旨】 最高裁は、原決定を取り消し、原々決定に対する抗告を棄却した。まず、対象者は本件行為時にアルコール依存の症状が関与した飲酒により酩酊状態と代謝性脳症を発症しており、原々決定時にもアルコール依存にり患していたことから、アルコール依存を心神耗弱の原因となった精神障害と同様のものと認定した原々決定の判断に誤りはないとした。次に、医療観察法は医療の対象となる精神障害の種類に限定を設けておらず、アルコール依存について自発的意思に基づく治療が原則とする医学的見解があることを踏まえても、実際に同法による医療でアルコール依存の専門プログラムが実施されていること等に鑑み、アルコール依存が一律に同法による医療の対象とならないとする解釈は相当でないと判示した。治療可能性については、原々決定が審判期日における対象者の病識や治療意欲等を具体的に示して鑑定と異なる判断をした理由を説明しており、不合理とはいえないとした。本決定は、アルコール依存と医療観察法の適用関係について最高裁が初めて判断を示したものとして、実務上重要な意義を有する。