AI概要
【事案の概要】 本件は、原告(沢井製薬)が、被告(旭化成ファーマ)の有する骨粗鬆症治療剤に関する特許(特許第6043008号)について特許無効審判を請求したところ、特許庁が無効審判請求は成り立たないとする審決をしたため、その取消しを求めた審決取消訴訟である。本件特許は、1回当たり200単位のヒトPTH(副甲状腺ホルモン)を週1回投与する骨粗鬆症治療剤について、(1)年齢65歳以上、(2)既存骨折あり、(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満等、(4)クレアチニンクリアランスが30以上50未満ml/minの中等度腎機能障害を有するという4条件を全て満たす患者を対象とする発明である。本件審決は、明確性要件・実施可能要件を充足し、先行文献(甲7発明)からの進歩性も認められるとして、無効審判請求を不成立とした。 【争点】 主な争点は、(1)PTHの「200単位」の明確性要件違反の有無(取消事由1)、(2)実施可能要件違反の有無(取消事由2)、(3)本件発明1及び2の進歩性の有無(取消事由3-1及び3-2)である。特に進歩性に関しては、甲7文献(PTH週1回投与の臨床試験論文)に記載された発明との相違点である本件4条件の容易想到性と、本件発明が予測できない顕著な効果を奏するか否かが中心的に争われた。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、事案に鑑み進歩性(取消事由3-1)から判断した。まず本件4条件の技術的意義について、本件3条件(年齢・既存骨折・骨密度)は骨折危険因子を多く持つ患者を特定する条件であり、本件条件(4)(中等度腎機能障害)は腎障害患者への安全性確保を目的とする独立の条件であると認定した。そして、本件基準日当時の技術常識に照らせば、本件3条件の各条件はいずれも骨折の一般的な危険因子として広く知られていたものであり、甲7発明に接した当業者がこれらを組み合わせて投与対象患者を特定することに格別の困難はないと判断した。本件条件(4)についても、PTHの軽度ないし中等度腎機能障害者への投与の安全性は技術常識として知られており、容易に想到し得ると判断した。被告が主張した顕著な効果については、(1)本件3条件を全て満たす高リスク患者の骨折抑制効果が低リスク患者より優れるとの効果は、本件明細書の記載からは理解できず、実験成績証明書を参酌しても症例数の不足から結論付けられないとし、(2)中等度腎機能障害患者への安全性の効果は甲7発明から予測し得る範囲内であり、(3)BMD増加率と骨折リスクの関係に係る効果は明細書に記載のない主張であるとして、いずれも予測できない顕著な効果とは認められないと判断した。以上により、審決の進歩性の判断には誤りがあるとして、本件審決を取り消した。