AI概要
【事案の概要】 本件は、愛知県知多郡内の福祉施設において入居者の介助等に従事していた被告人が、2件の傷害事件を起こした事案である。被告人は空手の有段者であった。 第1の事件として、令和元年7月24日夜から翌25日朝までの間に、自室のベッド上で横になっていた入居者A(当時54歳)の腹部を蹴る暴行を加え、加療約2か月間を要する小腸穿孔、穿孔性腹膜炎等の傷害を負わせた。Aは負傷をきっかけに切迫した生命の危険にまで至った。 第2の事件として、令和2年4月13日朝、同施設において入居者B(当時80歳)の陰嚢部等を蹴る暴行を加え、加療約1か月間を要する陰嚢内血腫の傷害を負わせた。 被害者両名はいずれも知的障害を有し、種々の介助が必要な状態にあった。被告人は障害者支援に熱意を有していた反面、他の支援者における入居者への対応等にストレスを感じていたことが本件の背景にあるとされる。 【争点】 被告人は公判廷において、被害者らに暴行を加えた具体的な記憶がないと述べた。捜査段階の自白供述にも暴行の有無や内容について変遷や曖昧・推測にわたる部分があった。そこで、被告人が犯人であるかが問題となった。 裁判所は、捜査段階の自認供述を離れても、被害者両名の負傷部位や内容から第三者による相当強い外力が原因であること、負傷発見時の状況から推定される受傷時期、その当時の施設における被告人及び他の職員の勤務状況を総合し、両名の負傷の原因は被告人による有形力であると推認した。さらに、外力の強さや負傷部位に加え、被告人自身が「あれだけの怪我を負わせる行為としては蹴ることしかあり得ない」と公判廷で述べたことから、蹴るという態様による暴行を認定した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、本件を自己よりも圧倒的な弱者に対する相当に危険で悪質な犯行と評価した。特にAについては生命の危険にまで至った結果の重大性を指摘し、被害者両名の親族が厳しい処罰感情を述べていることは当然に理解できるとした。 本件には衝動的な面も否定できず、被告人が障害者を単に攻撃対象として暴行を繰り返したとは異なるとしながらも、暴行の危険性や傷害結果に比して経緯は責任を格別減じるものではなく、刑事責任は重いとした。 他方、被告人が自身の行為を殊更否定せず責任を受け止める姿勢であること、謝罪の気持ちに疑いがないこと、前科前歴がないこと、実父が更生支援を約し損害賠償金150万円を用意してBに50万円が支払われたことなどを斟酌し、求刑懲役3年に対し、被告人を懲役2年4月に処した(実刑)。未決勾留日数210日が算入された。