損害賠償請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 控訴人(一審原告)は、月刊誌「文藝春秋」を発行する被控訴人(一審被告・株式会社文藝春秋)に対し、読者投稿欄「読者と筆者と編集者」に日韓関係についての投稿文を寄稿した。投稿文は、ある論考の「韓国を遠ざけない外交努力が必要である」との記述を紹介しつつ、「そうありたいと思いつつ,無駄な外交努力に思えてならない」との懸念を示し、福沢諭吉の脱亜論等にも触れた上で、「韓国とは粛々と付き合うしかない」と結論づけるものであった。ところが被控訴人は、控訴人の承諾を得ることなく、投稿文の題号や本文を複数箇所にわたって変更し、韓国との距離感についてバランスの取れた外交を肯定する趣旨の文章に改変した上で、控訴人の氏名・年齢・職業・居住都道府県名とともに掲載・頒布した。控訴人は、本件変更が著作者人格権(同一性保持権)を侵害するとして、慰謝料60万円の損害賠償を請求した。原審(さいたま地方裁判所)は不法行為の成立を認めたものの、後に本件月刊誌に謝罪文が掲載されたこと等により損害は既に填補されたとして請求を棄却したため、控訴人が控訴した。 【争点】 1. 本件変更に関する控訴人の同意の有無:投稿案内に「原稿の一部を手直しすることがあります」と記載されていたことから、被控訴人による変更が投稿者の同意の範囲内であったか否か。 2. 本件変更等による損害の有無及び額:謝罪文の掲載等により損害が填補されたといえるか。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、原判決を変更し、被控訴人に対して慰謝料10万円及び遅延損害金の支払を命じた。まず争点1について、投稿案内に手直しがある旨が記載されている場合でも、投稿者の同意の範囲は無制限ではなく、新聞・雑誌や投稿欄の趣旨、投稿文における思想・感情の創作的表現の態様等に応じて判断されるべきとした。その上で、本件変更箇所のうち、論考からの引用部分の差替え(変更箇所3)、大多数の日本人の考えの推察を控訴人自身の意見表明に変更した箇所(変更箇所4)、結論部分の「粛々と付き合うしかない」の意味内容を変容させた箇所(変更箇所6)、題号の変更(変更箇所7)等は、控訴人の意見の主要な部分に関わり、投稿文全体の主旨を変更するものであって同意の範囲を超えるとした。もっとも、福沢諭吉の脱亜論等に関する記述の切除(変更箇所5)については、投稿文全体の主旨を補強するものではあるが、切除のみでは主旨が変更されるとまではいえず同意の範囲内とした。争点2について、本件謝罪文は控訴人の投稿の本来の主旨に触れておらず損害を大きく回復するものとはいえないとして、原審の損害填補の判断を否定した。一方で、被控訴人の行為は故意とまでは認められないが故意に準じる重大な過失があったとし、諸般の事情を総合考慮して慰謝料10万円を認容した。