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【事案の概要】 被告人は、令和2年4月14日、大阪府箕面警察署の留置施設において、知人Cからの依頼を受け、被留置者Dへの衣類の差入れを行った。その際、被告人は被留置者金品出納簿の申込者欄に、Dの弁護人であるA弁護士の氏名・事務所所在地・電話番号を記載し、指印を押して提出した。検察官は、被告人がAになりすまして被留置者金品出納簿を偽造し行使したとして、有印私文書偽造・同行使罪で起訴した。事件の背景として、A弁護士が自らの代わりにCに差入れを依頼し、CがさらにAの名前での差入れを被告人に依頼したという経緯があった。被告人は、先にAの名前で郵送による差入れも行っていた。 【争点】 主な争点は2点である。第1に、被告人がA弁護士の名前使用について同人の承諾があると誤信していたかどうか。第2に、被留置者金品出納簿が文書の性質上、名義人自身による記載が予定される文書であるか、また被告人にその認識があったかどうかである。検察官は、弁護士が面識のない者に名前の使用を許容するはずがなく誤信はあり得ないと主張し、弁護人は、被留置者金品出納簿は名義人自身の作成が予定された文書ではなく、被告人にはAの承諾があったとの誤信があり故意がないと主張した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、被告人に無罪を言い渡した。第1の争点について、CがAの名前での差入れを被告人に依頼した可能性を否定できないとした。Cの公判証言は捜査段階の供述と変遷しており十分な信用性がなく、A弁護士自身もCが名前の使用を誤解した可能性を否定できないと供述していた。被告人が事前にAの名前で郵送による差入れを行っていたことも踏まえると、Aの承諾が得られていると誤信した可能性は十分あるとした。第2の争点について、大阪府警察留置業務取扱規程に基づき、被留置者金品出納簿は名義人自身による記載が予定される文書であると認定した。しかし、申込者自身が記載すべき旨の注意書きは簿冊末尾に目立たない形で記載されているにすぎず、差入れ経験のない被告人が当然に認識できたとはいえないとした。警察職員Bも、申込者本人が記載すべき書面であることを被告人に説明したとは認められなかった。以上から、被告人にはAの名前使用に関する承諾の誤信の可能性があり、かつ被留置者金品出納簿が名義人自身の記載を要する文書であるとの認識を欠いていた可能性が否定できないとして、有印私文書偽造・同行使罪の故意が認められないと判断し、刑事訴訟法336条により無罪を言い渡した。