石木ダム建設工事並びに県道等付替道路工事続行差止請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 長崎県と佐世保市を起業者とする石木ダム建設事業(二級河川川棚川水系)に関し、起業地内の居住者・地権者や周辺住民ら約400名の控訴人らが、ダム建設工事の続行は憲法上の権利又は人格権の一内容である生命・身体の安全を侵害されない権利、不安に怯えず平穏に生きる権利、良好な環境の中で生活を営む権利、人間の尊厳を維持して生きる権利等を違法に侵害するものであると主張し、妨害排除請求又は妨害予防請求として工事続行の差止めを求めた事案の控訴審である。石木ダム建設事業は、洪水調節と水道用水の確保を目的とするもので、昭和50年代から計画が進められてきたが、地元住民の強い反対が続いており、昭和47年に長崎県と地元3郷との間で「ダム建設の必要が生じたときは改めて3郷と協議の上、書面による同意を受けた後、建設に着手する」旨の覚書が交わされていた。原審(長崎地裁)は控訴人らの請求をいずれも棄却し、控訴人らが福岡高裁に控訴した。控訴人らは控訴審で新たに「平穏生活権」(自己が選択した土地で継続的かつ平穏に生活し、快適な生活を営む権利)の侵害も主張した。 【争点】 主な争点は、(1)ダム建設工事の続行が控訴人らの生命・身体の安全を侵害されない権利等を侵害するか、(2)控訴人らが主張する「こうばるの豊かな自然とその恵みを享受しながら生活を営む権利」や「人間の尊厳を維持して生きる権利」が民事上の差止請求を基礎付ける具体的権利といえるか、(3)控訴審で新たに主張された平穏生活権の侵害を理由に工事の差止めを求めることができるか、(4)治水・利水の両面で事業の必要性がないとの主張の当否である。 【判旨】 控訴棄却。裁判所は、まず生命・身体の安全に関する主張について、石木ダム建設事業は洪水調節と水道用水確保を目的とするものであり、事業を進めることにより控訴人らの生命・身体の安全が侵害されるおそれがあるとは認められないとした。控訴人らが主張する「県が本件事業を優先し他の治水対策を行っていない」という点についても、事業の推進と他の治水対策は基本的に別個の問題であるとして退けた。次に、「こうばるの豊かな自然の中で生活を営む権利」については主観的評価による部分が大きく、成立要件・法的効果・範囲・主体等が不明確であり、差止請求の法的根拠にはならないとした。控訴審で新たに主張された平穏生活権についても、その内容は抽象的で不明確であり、成立要件・法的効果等も不明確であるとした。さらに、平穏生活権の侵害が事業認定処分による土地収用や転居の強制に起因するのであれば、その救済は事業認定処分の取消訴訟によるべきであり、事業自体の不合理性・違法性を理由に民事上の差止めを求めることはできないと判示した。昭和47年の覚書の存在についても、地元の理解を得る努力は求められるものの、覚書の存在により上記判断が左右されるわけではないとして、原判決を維持し控訴を棄却した。