AI概要
【事案の概要】 令和2年3月5日午後9時50分頃、名古屋市内の厨房機器買取販売店の車庫内において、何者かが広報紙にライターで点火し、同所に保管されていたコルクボード及びイーゼルを焼損させた器物損壊事件である(損害額合計約200円相当。なお、起訴前の被疑罪名は非現住建造物等放火未遂)。被告人は同年5月11日に通常逮捕され、捜査段階では一旦犯行を認める供述(自認供述)をしたものの、公判では一貫して犯行を否認し、「自分は本件事件を行っていない」と供述した。検察官は、被害店舗付近の防犯カメラ映像、現場遺留のペットボトルから検出された混合DNA型、及び被告人の捜査段階の自認供述を総合して被告人の犯人性を立証しようとした。 【争点】 被告人と犯人との同一性(被告人の犯人性)が唯一の争点である。 【判旨(量刑)】 裁判所は、被告人に対し無罪を言い渡した(求刑:懲役1年6月)。まず、自認供述以外の客観証拠について検討し、防犯カメラ映像に映った人物(本件人物)は夜間の不鮮明な映像であり人相は全く不明で、体格や服装もありふれたものにすぎず、被告人との同一性を強く推認するものではないとした。また、現場のペットボトルから検出されたDNA型はいわゆる混合DNA型であり、被告人と内妻のDNA型が「過不足なく含まれていた」としても、それは数多くの組合せの中での一解釈・一可能性にすぎず、被告人の犯人性を有意に推認する証拠価値を持たないと判断した。次に、自認供述の信用性について詳細に検討し、(1)取調担当警察官がペットボトルから「被告人のDNAが出てきた」と不正確な評価を繰り返し伝えたこと、拘置所への移送を事件について供述することと結びつける発言をしたことなど、虚偽自白を誘発する危険性の高い不適切な誘導があったこと、(2)自認供述は現場の残焼物の状況(広報紙はごく一部が燃え焦げたのみ等)や防犯カメラ映像に映った犯行前後の行動経路と整合しないこと、(3)点火方法やレジ袋の扱い等の犯行の核心部分に少なからず変遷があり曖昧な部分も多岐にわたることを指摘し、自認供述を被告人が真実自己の記憶に従ってしたものとは認められないと結論づけた。以上から、本件全証拠によっても被告人が犯人であると認めるには合理的な疑いが残るとして、刑事訴訟法336条により無罪を言い渡した。