AI概要
【事案の概要】 公立病院の呼吸器・アレルギー疾患内科の部長職にあった医師である原告が、治験補助会社を通じて息子の妻に賄賂を供与させたとして第三者供賄罪で起訴された翌日、被告(全国紙を発行する新聞社)が原告に関する記事を掲載した。同記事は、「委託料でキャバクラ」「参事の医師 会議費名目で流用」との見出しの下、原告が診療科に分配された治験委託料をキャバクラでの飲食代等に私的流用していたこと、製薬会社に講演会を企画させて講演料の見返りに薬の採用を決めていたこと、「薬を売りたければ俺のところに言ってこい」と豪語していたこと等を報じるものであった。原告は、同記事により名誉を毀損されたとして、被告に対し、不法行為に基づく慰謝料300万円及び弁護士費用30万円の合計330万円並びに遅延損害金の支払を求めた。 【争点】 1. 本件記事が原告の名誉を毀損するものか 2. 公共性及び公益目的の有無、真実性又は真実と信じたことについての相当の理由の有無 3. 原告の損害額 【判旨】 裁判所は、まず本件記事が原告の名誉を毀損するものと認定した。記事の内容は、原告が病院における立場を悪用し、治験委託料をキャバクラでの遊興に費消し、私利私欲のために薬剤の採用を決定していたとの印象を一般読者に与えるものであり、原告の品性・信用に対する社会的評価を低下させるものであるとした。 次に、公共性及び公益目的については、原告が公立病院に勤務する公務員であり医師であることから、公共の利害に関する事実であり、公益目的も認められるとした。 しかし、真実性及び相当性については否定した。治験委託料のキャバクラ等への流用に関する記載は、取材源である病院関係者や捜査関係者が明確に述べたものではなく、記者が取材から得た情報を基に推測した内容にすぎなかった。原告には治験委託料を不正流用せずとも相当高額の収入があったと推察されることから、キャバクラに行っていたことと治験委託料の流用を直ちに結びつけるのは早計であるとした。また、原告の発言に関する記載についても、取材源が原告に対して悪感情を持っていた可能性があり、発言の日時・場所の確認や製薬会社関係者への裏付け取材も行われていなかった。いずれの記載についても、十分な裏付け調査を経ずに掲載されたものであり、真実性の証明も真実と信じる相当の理由も認められないとした。 損害額については、五大紙の一つの地方版(発行部数約12万部)に掲載され影響が大きかったこと、記事の内容が医師としての資質や人格に対する社会的評価を大きく低下させるものであったこと、他方で地方版にとどまること、起訴による社会的評価の低下が既に生じていたこと等を総合考慮し、慰謝料100万円及び弁護士費用10万円の合計110万円の限度で請求を認容した。