特許権に基づく製造販売禁止等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 電気工事作業に使用する作業用手袋に関する特許権(特許第5065448号)を有する原告(手袋の製造販売会社)が、被告ら(絶縁用ゴム製品の製造販売会社及びその完全子会社)に対し、被告製品が本件特許の技術的範囲に属するとして、特許法100条に基づく製造販売の差止め等、民法709条・719条1項に基づく損害賠償金約2356万円の連帯支払、及び予備的に民法703条に基づく不当利得金357万円の支払を求めた事案である。本件特許は、弾性材料で形成された手袋基体の外側に、アラミド繊維などの難燃性素材からなる生地体を貼着し、その表面にコーティング被膜を形成して凹凸を設けることで、耐電圧性や防水性を担保しつつ耐摩耗性や作業性を向上させた作業用手袋に関するものである。被告製品が本件発明の構成要件を充足すること自体は争いがなく、被告らは本件特許の無効を主張した。 【争点】 主な争点は、(1)被告らが本件特許出願前に東北電力に販売していた低圧二層手袋(乙1発明)が公然実施されたものか、(2)乙1発明に基づく本件発明の進歩性欠如の有無、(3)特許請求の範囲における「アラミド繊維などの難燃性を有する素材」との記載の明確性要件違反の有無、(4)損害額、(5)消滅時効の成否である。特に、乙1手袋の製造年月表示の信用性、乙1発明が構成要件H(コーティング被膜による凹凸の形成)を備えるか、及び乙1発明の「ポリアミド6」を「アラミド繊維」に置換することの容易想到性が中心的に争われた。 【判旨】 裁判所は、原告の請求をいずれも棄却した。まず争点(1)について、乙1手袋の袖口表示が仕様書の書式と合致すること、東北電力に660双が出荷された経緯等から、乙1手袋は平成16年3月に製造された製品であると認定した。原告が主張した製造年月の数字の書換え疑惑、耐用年数経過後の検査の不自然さ、東北電力が共同開発者であること等の各主張はいずれも排斥し、乙1製品は東北電力の各支店の作業員に使用されており秘密保持義務も認められないことから、乙1発明は公然実施されたものと認めた。争点(2)について、乙1手袋の凹部と凸部の間に50〜56μmの差が生じていることから構成要件Hの「凹凸」を備えると認定し、原告の「凹凸には滑り止め効果を生ずる程度の高低差が必要」との主張を退けた。相違点1(生地体の素材がポリアミド6かアラミド繊維か)についても、アラミド繊維が作業用手袋の分野で耐切創性・難燃性に優れた素材として知られていたことから、当業者が容易に想到し得たと判断した。以上により、本件発明は進歩性欠如の無効理由を有するとし、その余の争点を判断するまでもなく原告の請求を棄却した。