覚醒剤取締法違反被告事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 被告人は、令和2年11月29日頃、札幌市内のホテルにおいて、覚醒剤であるフェニルメチルアミノプロパンの塩類を含有する水溶液を自己の身体に注射して使用するとともに、覚醒剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパンの結晶粉末約0.675グラムを所持した。 本件の発覚経緯には特殊な事情がある。警察は、生命身体加害略取事件の被疑者Bの逮捕状を取得し、その所在捜査を行っていた。警察は、Bの情婦が使用する車両や、Bと接触のあった指名手配中のHからの情報提供などを手掛かりに捜査を進めたが、防犯カメラ映像に映った別人をBと誤認するなど、試行錯誤的な捜査を余儀なくされていた。その後、警察は被告人の車両をBが使用していると判断し、ホテル駐車場で同車両を発見。防犯カメラ映像でHの同伴を確認したが、同行する男性の顔を十分確認しないまま、Bであると判断してホテル客室に立ち入った。客室に入ったところ、在室していたのはBではなく被告人であり、テーブル上の使用済み注射器と封筒から覚醒剤が発見された。被告人には覚醒剤事犯を含む前科7犯があった。 【争点】 弁護人は、覚醒剤の使用・所持の事実自体は争わないものの、ホテル客室への立入りやその後の証拠収集手続に違法があり、関連する証拠は違法収集証拠として証拠能力が否定されるべきであると主張した。具体的な争点は、(1)Bが客室に現在する高度の蓋然性がないのに立ち入った点、(2)逮捕状を被告人らに呈示しなかった点、(3)テーブル上の封筒を開披して覚醒剤を発見・押収した手続の適法性であった。 【判旨(量刑)】 裁判所は、争点(1)について、警察が自動車の一致やHとの同行という事情だけでBがいると断定したのは不合理であり、防犯カメラ映像で男の顔を確認することが可能であったのにこれを怠ったと認定し、Bが現在する高度の蓋然性は認められず、立入りは刑訴法220条1項1号の要件を満たさない違法があるとした。争点(2)についても、逮捕状の不呈示は刑訴法222条1項・110条に反する違法があるとした。しかし争点(3)については、警察官が封筒の開披前に複数回質問し異議を述べる機会を与えた上で被告人らが無言であったことから、黙示の承諾があったと認め、開披手続自体は適法と判断した。 その上で、違法収集証拠排除法則の適用について、立入り判断の違法は軽視できないが、全く根拠を欠くものではなく思い込みによる蓋然性評価の誤りにとどまること、逮捕状不呈示も令状潜脱の意図によるものではないこと、覚醒剤の発見・押収自体は黙示の承諾により適法になされていることなどを総合し、令状主義の精神を没却するような重大な違法には当たらないとして、証拠能力を肯定した。 量刑については、覚醒剤の自己使用と所持は悪質で動機に酌量の余地がないこと、前科7犯があり覚醒剤への依存性がうかがわれること、前刑執行終了から約5年後の再犯であることなどを考慮し、求刑懲役4年に対し、被告人を懲役2年6月に処した。