AI概要
【事案の概要】 本件は、画像形成装置(複合機・プリンター)に係る特許権(特許第6055971号)を有する原告が、被告キヤノン株式会社に対し、被告が製造販売するプリンター製品とスマートスピーカーを組み合わせた装置が原告の特許発明の技術的範囲に属すると主張して、特許法102条3項に基づく損害賠償として600万円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。原告の特許は、画像形成装置において、メイン画面を表示せずに画面を切り替えることなく加工を実施する指示を出す手段を設けた発明であり、請求項2では音声による加工実施手段を追加した発明であった。原告は、被告製品にスマートスピーカーを組み合わせて音声指示で印刷する機能が、直接侵害(文言侵害・均等侵害)又は間接侵害(特許法101条1号・2号)に該当すると主張した。本件特許は、原出願から3回の分割出願を経て成立したものであり、被告は分割要件違反による無効を抗弁として主張した。 【争点】 主な争点は、(1)被告装置が本件各発明の構成要件を文言上充足するか、(2)均等侵害の成否、(3)間接侵害の成否、(4)本件特許が無効審判により無効とされるべきか(分割要件違反及び新規性・進歩性の欠如)、(5)損害額であった。裁判所は、事案に鑑み、まず争点(4)の特許無効の抗弁から判断した。 【判旨】 裁判所は、原告の請求を棄却した。その理由は以下のとおりである。まず分割要件違反について、分割出願の出願日が原出願日に遡及するためには、分割出願の明細書等に記載された事項が原出願の出願当初の明細書等の範囲内であること、及び分割直前の明細書等の範囲内であることを要すると解した。本件出願2は、原出願(本件出願1)の特許査定後に分割出願されたものであるところ、本件出願2の明細書等には、実施例の説明や図面の追加など、本件出願1の査定時明細書には存在しない新規事項が含まれていた。原告は、分割要件違反は審査官の事務的な照合間違いに起因する行政の瑕疵であると主張したが、裁判所は、分割出願を適法に行う責任は第一次的には出願人が負うとして退けた。この結果、本件特許出願の遡及日は本件出願2の現実の出願日である平成26年11月4日となり、それ以前に公開された先行文献(特開2013-214848号公報)が先行技術として適用されることとなった。裁判所は、当該先行文献に記載された発明と本件各発明を対比し、構成要件の全てにおいて一致すると認定し、本件各発明は新規性を欠くと判断した。以上から、本件特許は無効審判により無効とされるべきものであり、特許法104条の3第1項により原告は特許権を行使できないとして、その余の争点を判断するまでもなく請求を棄却した。