AI概要
【事案の概要】 本件は、金融商品取引法違反等で起訴された刑事被告人B(日産自動車前会長)が保釈中にレバノンへ密出国した事件に関し、被告ら(読売新聞東京本社及び同大阪本社)が発行する読売新聞に掲載した記事により、Bの元弁護人である原告A弁護士及びその所属する原告弁護士法人の名誉及び信用が毀損されたと主張して、被告らに対し、民法709条に基づきそれぞれ330万円(慰謝料300万円及び弁護士費用30万円)の損害賠償を求めた事案である。問題となった記事は、密出国を手助けしたとされる米国籍の男がBと原告法人の事務所で頻繁に面会しており逃亡の打ち合わせが行われたとみられること、及び匿名の検察幹部の「逃亡の謀議を黙認していたと疑われても仕方がない」との発言を報じたものであった。 【争点】 (1) 本件記事が原告らの名誉ないし信用を毀損するものであるか。具体的には、記事中の検察幹部の発言部分が、原告らが密出国の謀議を知りながら黙認したとの事実を摘示するものか、それとも意見ないし論評の表明にとどまるものか。 (2) 真実性ないし公正な論評の法理により違法性が阻却されるか。原告らは、事務所来訪者の身元確認義務を保釈条件として負っていなかったことから、記事の前提事実が真実に反すると主張した。 (3) 損害の発生及びその数額。 【判旨】 裁判所は、請求をいずれも棄却した。まず争点(1)について、本件発言部分は、匿名の検察幹部からの伝聞という形式にとどまらず、被告らの記者自身が原告らについて「逃亡の謀議を黙認していたと疑われても仕方がない」と報じたものと認定した。しかし、「黙認していた」と断定せず「疑われても仕方がない」との表現が用いられていること、直前の事実からの推論を述べたものであること、記事が原告らの法的責任を問うものではないこと等から、本件発言部分は、原告法人の事務所における来訪者の確認態勢が結果的に密出国の謀議を阻止するに十分でなかったとして原告らが道義的非難を免れないとの意見ないし論評の表明であると判断した。その上で、弁護士としての廉潔性に関わる道義的責任の指摘は原告らの社会的評価を低下させるものであるとして名誉毀損の成立を認めた。しかし争点(2)について、記事は公共の利害に関する事実に係り専ら公益目的であること、論評の前提事実である事務所職員が来訪者の身元確認等をしていなかった事実は原告らも認めており真実であること、及び論評が意見の域を逸脱していないことから、公正な論評の法理により違法性が阻却されると判断した。