AI概要
【事案の概要】 原告(大塚製薬)は、発明の名称を「5-HT1A受容体サブタイプ作動薬」とする医薬用途発明について特許権(特許第4178032号)の設定登録を受けた。本件特許の請求項1、4及び5に係る発明は、アリピプラゾール等のカルボスチリル化合物を有効成分とし、双極性I型障害及び双極性II型障害を含む5-HT1A受容体サブタイプに関連した中枢神経系の障害を治療するための医薬組成物に関するものである。被告(共和薬品工業及び日医工)が特許無効審判を請求したところ、特許庁は、5-HT1A部分作動薬を双極性障害の治療に使用できることは出願時の技術常識とはいえないとして、実施可能要件違反及びサポート要件違反を理由に請求項1、4及び5に係る特許を無効とする審決をした。原告がこの審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。 【争点】 主な争点は、①本件出願時において、5-HT1A受容体部分作動薬を双極性障害のうつ病エピソードの治療に使用できることが技術常識であったか、②双極性障害患者への抗うつ薬投与に伴う躁転等の有害事象の危険性が実施可能要件・サポート要件の判断において考慮されるべきか、③本件明細書の記載が実施可能要件及びサポート要件を充足するかである。 【判旨】 知財高裁は、原告の請求を認容し、審決を取り消した。まず、本件出願当時、5-HT1A受容体部分作動薬が脳内のシナプス後5-HT1A受容体に結合して作動する受容体部分作動作用に基づき抗うつ作用を有することは技術常識であったと認定した。次に、単極性うつ病のうつ病エピソードと双極性障害のうつ病エピソードの定義・診断基準は同一であり、大うつ病性障害の患者に有効な抗うつ薬は双極性障害のうつ病エピソードにも有効であると考えられていたこと等から、5-HT1A受容体部分作動薬一般がその抗うつ作用により双極性障害のうつ病エピソードに対して治療効果を有することも技術常識であったと判断した。躁転等の有害事象については、医薬用途発明の実施可能要件の判断において、著しい副作用又は有害事象の危険が生じるため投与を避けるべきことが明白であるなどの特段の事由がない限り、当該医薬が対象疾患に対して治療効果を有することを当業者が理解できれば足りるとの判断基準を示した上で、本件出願当時、抗うつ薬と気分安定薬の併用により躁転リスクのコントロールが可能であったことから、上記特段の事由には当たらないとした。以上により、本件明細書の記載及び技術常識に基づき、当業者は本件発明の実施が可能であると理解でき、実施可能要件及びサポート要件のいずれにも適合すると結論づけた。