AI概要
【事案の概要】 本件は、不二製油グループ本社株式会社(被告)の元従業員である原告が、在職中に完成した2つの職務発明(ハードバター製造等に有用な油脂の乾式分別方法に関する発明A及びB)について、特許を受ける権利を被告に承継させたことにつき、平成16年改正前特許法35条3項に基づき、相当の対価の未払分合計1億0515万円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。 原告は被告に昭和58年に入社し、平成13年から新技術開発室(NT)の室長として業務に従事した。本件各発明は、チョコレートの原料であるココアバター代用脂(CBE)の製造に用いるSOSパーツの分別方法に関するもので、従来の溶剤分別法に代わる乾式分別法を確立するものであった。被告は米国子会社FVOにおいて本件乾式分別法を実施する工場を建設し、平成16年から稼働させた。被告は原告に対し、貢献報奨金として45万円を支払済みであった。 【争点】 主な争点は、(1)本件各特許権による独占の利益の有無、(2)使用者の貢献度、(3)共同発明者間の貢献割合、(4)相当な対価の額であった。原告は、乾式分別法が溶剤分別法と比較して品質面で同等かつコスト面で圧倒的に優位であり、本件各特許権が競合他社の参入を阻止した結果、被告グループのCBE市場シェアが拡大したと主張した。被告は、溶剤分別法という確立した代替技術が存在し、競合他社は何らの影響も受けずに事業活動を行っていること、品質面及びコスト面でも乾式分別法は溶剤分別法を上回らないことから、独占の利益は存しないと反論した。 【判旨】 裁判所は、原告の請求をいずれも棄却した。その理由は以下のとおりである。 まず品質面について、FVOで製造された乾式分別品は、溶剤分別品と比較して、口溶けの指標であるSFC、テンパリングのしやすさの指標であるTmax等の数値がいずれも劣ること、同一SOS濃度でもCBEの結晶化を阻害する不純物が多いことが認定された。 コスト面については、本件工場の建設費が当初の実行予算を大幅に超過し、さらに増設工事にも多額の費用を要したこと、歩留まりが設計値を大きく下回る状況にあったことなどから、乾式分別法が溶剤分別法に比してコスト面で明確に有利とはいえないと判断された。 市場シェアについても、被告グループのシェア増大が本件工場の稼働によるものであることを裏付ける客観的資料はなく、シェアの変動はむしろココアバターの価格変動との関連性がうかがわれるとされた。また、競合他社(AAK及びLC)はいずれも溶剤分別法により事業活動を行っており、本件各特許権の存在が競合他社の参入を回避させているとまではいえないと認定された。 以上の事情を総合考慮し、被告が本件各特許権により独占の利益(通常実施権による利益を超える利益)を得たとは認められず、被告規程に基づく対価45万円は法定の相当対価を下回るものではないとして、原告の相当対価請求権を否定した。