強盗殺人被告事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、被告人が高齢の夫婦(夫83歳、妻80歳)を殺害し、現金約1227円及び財布1個を奪ったとして強盗殺人罪(刑法240条後段)で起訴された事案の控訴審判決です。平成29年3月、名古屋市内の被害者宅において、被告人は包丁等で夫婦それぞれの頸部を刺して殺害し、財布等を持ち去りました。 被告人・弁護人は殺害行為と財布の持ち去り自体は争わず、争点は、被告人に犯行当初から強盗目的があったか、また犯行時の責任能力(完全責任能力か心神耗弱か)の2点でした。被告人は、妻から侮辱的な発言を受けて怒りを覚えて殺害に及び、夫は反射的・衝動的に殺害したもので、財布は犯行後に衝動的に取ったにすぎず、当初から強盗目的はなかったと弁解しました。 原審(名古屋地裁裁判員裁判)は、完全責任能力は認めたものの強盗目的を認めず、殺人罪2個と窃盗罪の限度で有罪とし、検察官の死刑求刑に対し無期懲役を言い渡しました。これに対し検察官が事実誤認を理由に控訴しました。 【争点】 原判決が強盗目的を認めず殺人罪・窃盗罪にとどめた事実認定に事実誤認があるかが争点となりました。具体的には、被告人の経済状況・借金の存在、殺害後の物色行為、殺害順序(怒りの対象でない夫を先に殺害した経緯)、軽度知的障害による衝動性の影響等の諸事情を総合して強盗目的を推認できるかが問題とされました。 【判旨(量刑)】 本判決は、原判決には事実誤認があるとして原判決を破棄し、本件を名古屋地方裁判所に差し戻しました。 理由として、第一に、物色範囲が限定的であったことをもって強盗目的を否定する原判決の論理は、現場の状況等から物色範囲が限定されることは容易に想定でき、合理性を欠くと指摘しました。第二に、被告人は血のついたトートバッグを物色した後に靴下を手にはめて財布を取っており、財布を見て初めて窃取を思い立ったとの弁解と矛盾するのに原判決はこの点を検討していないと批判しました。第三に、借金返済への思いと殺害に追い詰められていた可能性を切り離して評価した原判決は、複数事情の総合評価の観点を欠くと指摘しました。第四に、高額の金銭があると認識しなければ強盗目的が生じないかのような説示は経験則に反するとしました。第五に、怒りの対象でない夫をいきなり殺害した事実は妻への怒りを動機とする弁解と整合せず、軽度知的障害による衝動性だけでこの部分を説明する原判決の説示は、被告人の責任能力判断における評価と整合しないとしました。 裁判員裁判事件であり事案が重大であることから、差戻し後は、精神障害の影響、計画性の有無、自首評価を含む情状等について裁判員を含む合議体で改めて審理・評議を尽くすべきであるとしました。本判決は、裁判員裁判における事実認定に対する控訴審の審査のあり方として、複数事情の総合評価を欠く論理則・経験則違反を指摘した事例として実務的意義を有します。