AI概要
【事案の概要】 被告らは、火山灰を膨化処理した中空状の「シラスバルーン」を、界面活性剤入りのアルカリ溶液に浸漬して中空内部にアルカリ溶液を浸透させた後、脂肪酸を添加することでバルーンの外部と内部の双方に石けんを形成する「スクラブ石けんの製造方法」について、平成22年に特許登録を受けた(本件特許)。 原告は、当該特許には、①サポート要件違反、②実施可能要件違反、③引用発明1(シラスマイクロバルーン含有洗顔石けんに関する文献)に基づく進歩性欠如、④引用発明2(球状空間に液体を内蔵したセラミック造粒体の特許公報)に基づく進歩性欠如があるとして、特許無効審判を請求した。特許庁は平成31年4月2日、請求不成立の審決をしたため、原告は審決取消しを求めて本件訴訟(審決取消訴訟)を知的財産高等裁判所に提起した。 【争点】 争点は、(1)特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に裏付けられているかというサポート要件の充足性、(2)当業者が過度の試行錯誤なく実施できる程度に明細書が記載されているかという実施可能要件の充足性、(3)各引用発明および周知技術から本件発明の構成を容易に想到できたか(進歩性)の3点である。とりわけ、シラスバルーンを界面活性剤含有アルカリ溶液に浸漬した後に脂肪酸を添加するという添加順序を、当業者が引用文献から容易に想到し得たかが核心的争点となった。 【判旨】 知的財産高等裁判所第1部は、原告の請求を棄却した。 サポート要件については、本件明細書がシラスバルーンの平均粒径を「5〜20μm程度」と例示しているにとどまり、これを超える粒径のものが破壊されやすいことを示す技術常識は認められないとして、特許請求の範囲が発明の詳細な説明から拡張・一般化されているとはいえないと判断した。実施可能要件については、明細書に石けんを中空内部にも形成させる具体的な工程が十分に記載されている以上、内部の石けん形成を確認する分析方法の明示がないことは要件違反にならないとした。進歩性については、引用発明1が先に石けんを調製してからシラスバルーンを混合するものである以上、添加順序を入れ替える動機付けがなく、また引用発明2は真空下で液体を内蔵させるものであって中空内部で石けんを形成させる示唆を含まないとして、いずれの引用発明と甲3技術・周知技術を組み合わせても本件発明に至らないと結論づけた。 本判決は、化学プロセス特許における「工程の順序」が発明の本質的構成要素として進歩性判断に影響する一例であり、類似技術分野の寄せ集めだけでは容易想到性が認められないことを示した実務上意義のある判断である。