AI概要
【事案の概要】 本件は、著名な彫刻家・故富永直樹の単独相続人である原告が、美術工芸品販売業を営む被告に対し、著作権(複製権)侵害を理由として損害賠償を求めた事案である。被告は平成16年頃から平成28年頃までの間、訴外直樹または原告の許諾を得ることなく、「クリスマス・イブ(小)」39体、「パリ祭」20体、「初舞台」16体、「大将の椅子」17体、「トルコの貴婦人」11体など、訴外直樹のブロンズ像作品の複製品を第三者に依頼して製造・販売していた。被告は既に高岡簡易裁判所で著作権法違反により罰金70万円の刑事処分を受けていた。原告は、これら各作品に「トスカーナの女」5体を加え、従前の許諾契約における許諾料(1体当たり60万円〜250万円)を基礎として、著作権法114条3項に基づき合計1億2580万円の損害賠償を請求した。 【争点】 争点は、(1)被告が「トスカーナの女」を複製したか否か及びその数、(2)訴外直樹及び原告の損害額(特に許諾料相当額の算定方法)である。前者については、被告が答弁書等で当初複製事実を認めた後に否認に転じたため、裁判上の自白の成否と撤回の可否が問題となった。後者については、従前の許諾料がそのまま侵害期間の許諾料相当額として妥当するか、それとも被告の実際の販売価格など侵害者側の事情を考慮すべきかが争われた。 【判旨】 大阪地裁は請求の一部を認容し、6290万円の支払を命じた。「トスカーナの女」については、被告が答弁書等で複製の事実自体は認めていたとして自白の成立を認め、P3の請求書の符丁「篭地蔵」が同作品を指すと推認される等の事情から自白は真実に反しないとして撤回を許さず、複製数を5体と認定した。損害額については、著作権法114条3項が著作権者に最低限の損害賠償を保証する趣旨であることを踏まえ、著名な芸術家の高価な作品の複製許諾では、大量生産が予定されず、品質が著作者の評価に直結するため、慎重な選考や高めの料率設定がなされる特殊性を指摘した。その上で、侵害者が廉価販売した事実により許諾料相当額を大きく下落させることは同項の趣旨を没却すると述べつつ、従前の許諾が平成元年から平成9年頃の合意であり、侵害期間(平成16〜28年頃)の相場とは乖離があること等を考慮し、従前の許諾料の半額を相当な許諾料相当額とした。本判決は、芸術作品の複製における著作権法114条3項の許諾料相当額算定において、著作権者側の価格維持方針と侵害者側の実際の販売価格の双方を考慮する枠組みを示した実務的意義を有する。