AI概要
【事案の概要】 本件は、A刑務所に服役していた原告が、養父であるBに宛てた信書の発信許可を申請したところ、刑務所長から不許可処分(本件処分)を受けたため、その取消しと、違法な処分により精神的苦痛を受けたとして国家賠償法1条1項に基づく慰謝料10万円等の支払を求めた事案である。 原告は指定暴力団C組の幹部(若頭)であり、Bは同組の組長である。両名は平成28年1月に養子縁組をしている。原告は恐喝未遂罪で懲役2年の実刑判決を受けて服役中、平成30年4月に養父Bへの手紙の発信を申請したが、刑務所長は、Bが矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある者に該当するとして、刑事収容施設法128条に基づき発信を禁止した。原告はその後満期出所し、本件信書の引渡しを受けている。 刑事収容施設法128条は、受刑者が犯罪性のある者等と信書を発受することを禁止できると定める一方、親族との信書発受については禁止対象から除外している。 【争点】 主たる争点は、暴力団組長であるBが同条にいう「親族」に当たるか否かである。被告は、本件養子縁組は組織の維持強化のための疑似的血縁関係の形成を目的としたもので無効であり、仮に無効でないとしても外部交通規制の潜脱目的による縁組であるから「親族」に当たらないと主張した。これに対し原告は、本件縁組は真の親子関係を成立させる意思に基づく有効な縁組であり、Bは「親族」に当たると主張した。 なお、原告は既に満期出所して信書の引渡しも受けていたため、取消訴訟については訴えの利益の有無も問題となった。 【判旨】 裁判所は、まず取消請求について、原告が満期出所し信書の引渡しも受けているため、処分を取り消す法律上の利益は失われたとして訴えを却下した。 国家賠償請求については、法128条が親族を禁止対象から除外した趣旨は、矯正処遇の適切な実施のため受刑者の改善更生上好ましくない社会関係を遮断することを原則としつつ、人道上の要請から親族との発受を例外的に許容した点にあるとした。そのうえで、養親子関係については縁組の動機が様々であることに鑑み、民法上有効な養子縁組であっても、人道上の必要性が乏しく、かつ受刑者の矯正処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがある場合には、当該養親は同条の「親族」に当たらないと解するのが相当と判示した。 本件では、原告とBは養親子関係となってから約2年3か月にすぎず、実親子同様の親密な情で結ばれていたとはいえないこと、両名が暴力団組長と組員という関係にあり、信書や面会を通じて暴力団組織の維持強化に関わる事項の意見交換を行っていたこと、本件信書の発受を認めれば原告の暴力団離脱指導の目標達成に支障を来すおそれがあることなどから、Bは「親族」に当たらないと結論し、本件処分を適法として慰謝料請求を棄却した。 本判決は、刑事収容施設法128条の「親族」概念について、形式的な身分関係ではなく矯正処遇上の実質的評価を加味して限定解釈する立場を示したもので、暴力団関係者による外部交通確保目的の養子縁組への対応という刑事施設運営上の実務的課題に応えた判断として意義を有する。