損害賠償及び特許権使用の実施料の支払い請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、原告が、共有特許の実施品を被告が製造・販売したとして、共同出願契約に基づく実施料の一部として100万円の支払を求めた事案である。 原告は、平成5年に「水栓エルボ挟み込み連結固定具及び取り付け足」の実用新案登録出願をし、翌年これを基礎とする優先権を主張して、「水栓エルボ連結固定具」に関する特許出願をした。原告は、平成6年11月、被告(当時の東陶機器株式会社)との間で、本件発明等について、特許を受ける権利を持分各2分の1とする共有とし、製造は原則として被告のみが行い、被告が製造販売をする場合には原告に実施料を支払うことを内容とする共同出願契約を締結した。平成9年には原告と被告を共有特許権者とする本件特許権の設定登録がされたが、被告が平成19年度分の特許料を納付せず追納もしなかったため、本件特許権は平成18年8月1日をもって消滅したものとみなされた。 原告は、平成9年7月1日から平成29年6月30日までの間、被告がユニットバスに組み付けるシャワーセットを製造・販売して本件発明を実施したと主張し、月額100万円程度とされる実施料のうち一部である100万円の支払を求めた。これに対し被告は、本件発明を実施していないと反論した。 【争点】 被告のユニットバス(HSシリーズのT/S/Nタイプ等)で用いられている回転防止材(被告製品)が、本件特許の技術的範囲に属し、被告がこれを製造・販売することによって本件発明を実施しているといえるかが争点となった。特に、本件特許の各請求項がいずれも「合成樹脂で形成され」等と規定しているのに対し、被告製品の材質がSGCC(溶融亜鉛めっき鋼板)であることから、構成要件の充足性が問題となった。 【判旨】 裁判所は、請求を棄却した。 すなわち、本件特許に係る請求項の記載内容からすれば、構成要件A‐1及びA‐4の「合成樹脂で形成され」、構成要件A‐2の「合成樹脂で直方体状に形成され」並びに構成要件A‐3の「合成樹脂で箱状に形成され」とは、水栓エルボ連結固定具が合成樹脂で形成されていることを意味すると解するのが自然であり、明細書の「課題を解決するための手段」や「実施例」の項でも、エポキシ樹脂やポリアミド樹脂等の合成樹脂で形成されることが前提とされている。したがって、本件発明においては、水栓エルボ連結固定具が合成樹脂(いわゆるプラスチック)で形成されているものとして特定されているといえる。 他方、証拠によれば、被告製品の材質はSGCC(溶融亜鉛めっき鋼板)であって、合成樹脂ではないと認められる。そうすると、被告製品は、請求項1ないし4及びその従属項である請求項5、6に係る発明の構成要件A‐1、A‐2、A‐3、A‐4、G、Iのいずれも充足せず、本件発明の技術的範囲に属しない。他に被告が本件発明を実施していることを認めるに足りる証拠もない以上、原告の請求は理由がないとされた。 本判決は、共有特許に関する実施料請求の前提となる実施行為の有無について、特許請求の範囲と明細書の記載に基づいて構成要件該当性を判断した事例であり、材質に関する構成要件が充足されない場合には実施料請求が認められないことを示す、実務上参考となる判断である。