公金支出無効確認等請求事件(住民訴訟)
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、大阪市の住民である原告らが、大阪市ヘイトスピーチへの対処に関する条例(以下「本件条例」という。)の実施に関して行われた支出が違法であるとして、地方自治法242条の2第1項4号に基づく住民訴訟を提起した事案である。 大阪市は、平成28年に本件条例を制定し、特定の人種や民族に属する個人・集団を侮蔑・誹謗中傷し、あるいは脅威を与える内容を持ち、かつ社会からの排除等を目的として行われる表現活動を「条例ヘイトスピーチ」と定義した。市長は、該当すると認める表現活動について拡散防止措置(削除要請等)を採り、かつ表現活動を行った者の氏名を公表する(認識等公表)こととされている。 本件では、「ダイナモ」というハンドルネームを用いる者が、在日韓国・朝鮮人を侮蔑する発言を伴うデモ活動を撮影した動画をニコニコ動画に投稿していたところ、大阪市は本件条例に基づき当該活動を条例ヘイトスピーチと認定し、ハンドルネームの公表等を行った。 原告らは、本件条例は憲法21条1項(表現の自由)、13条(プライバシー権)、31条(適正手続)、94条(条例制定権)等に違反し無効であり、これに基づく審査会委員報酬(約115万円)や郵便料金(1272円)の支出命令は違法であるとして、当時の大阪市長に対する損害賠償請求を行うよう被告(大阪市長)に求めた。 【争点】 本件条例が憲法21条1項、13条、31条、94条及び地方自治法14条1項に違反し無効であるか、並びに本件条例に基づく認識等公表及び関連する支出命令が違法であるかが争点となった。 【判旨】 大阪地裁は、原告らの請求をいずれも棄却した。 まず、本件条例の拡散防止措置等は、表現活動を一定程度抑止し得るものであり、憲法21条1項が保障する表現の自由を制限する側面を有することを認めた。もっとも、ヘイトスピーチを伴うデモ等が大阪市内で多数行われ、人種差別撤廃委員会からも対処を求める勧告が繰り返されている状況等に照らせば、条例ヘイトスピーチを抑止する必要性は高い。他方、拡散防止措置は要請に応じない場合の制裁を伴わず、認識等公表もプロバイダ等への氏名開示義務を伴わない。また、措置に先立ち学識経験者で構成される審査会への諮問が予定され、対象者には意見陳述・証拠提出の機会が与えられている。こうした事情を総合すれば、本件各規定は公共の福祉による合理的で必要やむを得ない限度の制限であり、憲法21条1項に違反しないと判断した。 漠然性・過度広汎性の主張については、条例ヘイトスピーチの定義は目的・内容・態様・場所等の要件で具体的に規定されており、一般人の理解において判断基準が読み取れるとして排斥した。憲法13条については、認識等公表は公共の福祉による合理的制限にとどまりプライバシー権・人格権を侵害しないとし、憲法31条については、認識等公表は「その他の刑罰」に該当せず、行政手続としての手続保障も欠けていないと判示した。憲法94条・地方自治法14条1項との関係でも、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消の推進に関する法律(ヘイトスピーチ解消法)は地域の実情に応じた施策を容認しており、本件条例と矛盾抵触しないとした。 本件表現活動については、デモ行進で「殺せ、殺せ、朝鮮人」等の激烈な発言が繰り返されていること等から、条例ヘイトスピーチに該当すると認定し、本件認識等公表は違法でないと結論づけた。本件条例の合憲性を正面から判断した先例的意義を有する判決である。