特許権侵害差止等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 油冷式スクリュ圧縮機のメーカーである原告(神戸製鋼所)は「油冷式スクリュ圧縮機」に関する特許権を保有していたところ、被告(前川製作所)が製造販売するGHシリーズおよびJHSシリーズの油冷式スクリュ圧縮機、並びにこれらを組み込んだ冷凍冷蔵用スクリュ式ガス圧縮システム「NewTonシステム」が本件特許の技術的範囲に属すると主張した。本件特許は、バランスピストンの仕切り壁側の空間に油溜まり部の油を加圧せずに導く「均圧流路」等を採用することで、逆スラスト荷重状態の発生を防ぎ、スラスト軸受の負荷容量を増大させる構成に特徴がある。原告は特許権侵害に基づく損害賠償として約126億円を請求した。主要な争点は、被告製品が本件発明の構成要件E(圧力遮断する仕切り壁)、F(均圧流路)、G(油冷式スクリュ圧縮機)を充足するか、および特許法102条2項に基づく損害額であった。 【争点】 第一に、「均圧流路」とは油溜まり部とバランスピストン室の圧力を厳密に等しくする流路に限られるか、加圧せずに導く流路で足りるかが争われた。第二に「圧力遮断する仕切り壁」の範囲、すなわちバランスピストン室反対側の空間の圧力遮断まで要求されるかが争点となった。第三に、損害額算定において侵害品をNewTonシステム全体とするか圧縮機単体とするか、および特許法102条2項の推定を覆滅すべき事情の範囲が争われた。 【判旨】 大阪地裁は原告の請求を一部認容し、約13億7971万円の支払を命じた。まず「均圧流路」について、明細書の記載や技術常識に照らすと「均圧」とは「加圧していない」ことを意味し、流路内で不可避的に生じる圧力損失までは否定されないと解釈した。そのうえで、常時均圧流路を使用している被告製品2-2・2-3については構成要件Fを充足すると認めた一方、起動時に加圧流路を使用する被告製品1-2・2-1は本件発明の技術的範囲に属しないとした。「仕切り壁」についても、バランスピストンの受圧面と対面してバランスピストン室を構成する壁で足りるとし、ラビリンスシール構造や反対側空間の連通は充足性を左右しないと判断した。損害については、被告が圧縮機単体を独立に販売しておらずNewTonシステムに組み込んで販売していたことから、侵害品はNewTonシステム全体であると認定し、特許法102条2項に基づき限界利益約125億円を推定した。もっとも、省エネ性能や安全性などNewTonシステムの顧客吸引力の大部分は本件発明の作用効果とは無関係のIPMモーターや間接冷却方式に由来すること、被告には非侵害品である被告製品2-1や油ポンプ追加による回避設計の選択肢もあったこと等を総合的に考慮し、9割の限度で推定を覆滅するのが相当と判断した。本判決は、システム製品に組み込まれた侵害部品の損害額算定について、需要の代替性や技術的貢献度を踏まえた推定覆滅の判断枠組みを示した実務上重要な判例である。