強制執行妨害目的財産損壊等被告事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 被告人は、甲から提起された損害賠償請求訴訟において、7000万円の支払を命ずる仮執行宣言付き判決を受けた。その後、被告人は強制執行を妨害する目的で、自己名義の普通預金口座から現金を払い戻す行為に及んだ。具体的には、原判示1として、ある預金口座から1500万円を払い戻したほか、原判示2として、勤務先から振り込まれた退職金約3174万円を含む口座から合計1890万円を払い戻し、そのうち勤務先への送金分380万円を除いた1510万円を貸金庫や自宅に現金として保管した。これらの行為が強制執行妨害目的財産損壊等罪(刑法96条の2第1号)に該当するとして起訴された。第一審(広島地裁)は有罪とし、被告人が控訴した事案である。 【争点】 本件の中心的争点は、預金からの払戻し行為が刑法96条の2第1号にいう「強制執行を受けるべき財産の隠匿」に該当するか、また被告人に「強制執行を妨害する目的」があったといえるかである。弁護人は、①原判示1の払戻しは妻が自宅不動産を落札するための資金であり、結果的に甲への配当金支払いにつながったこと、②原判示2の払戻しも一部が甲への損害賠償支払いや弁護士費用・生活費に充てられたこと、③退職金は生活資金であり、これを犯罪とすることは憲法25条の生存権を侵害することなどを主張して、罪の成立を争った。 【判旨(量刑)】 広島高裁は、被告人の控訴を棄却した。判旨は、「隠匿」とは財産の発見を不能または困難にする行為をいい、預金債権は金融機関を介して債権者が比較的容易に把握できる財産であるところ、これを現金に変更する行為は所在把握を困難にするものであるから、払戻し行為は「隠匿」に当たると判示した。そのうえで、各払戻しは差押えを回避して自己資金を確保する意図によるものであり、強制執行妨害の目的があったことは明らかであるとした。事後的に甲へ1000万円を支払った事実や、妻による自宅落札資金確保の目的があったとしても、払戻し時点の違法な目的は正当化されないと判断した。また、退職金についても、預金口座に振り込まれて預金債権に転化した以上、民事執行法153条1項の差押禁止債権の範囲変更の申立てによって債務者の生活保障が図られるべきであり、法定の手続によらずに生活資金を確保する行為を許容すべきではないとして、憲法25条違反の主張も退けた。本判決は、預金払戻し行為を「隠匿」として明確に位置づけ、強制執行妨害罪の成立範囲を示した実務上重要な先例である。