詐欺,窃盗,詐欺未遂被告事件
判決データ
- 事件番号
- 平成29あ2073
- 事件名
- 詐欺,窃盗,詐欺未遂被告事件
- 裁判所
- 最高裁判所第一小法廷
- 裁判年月日
- 2020年1月23日
- 裁判種別・結果
- 判決・破棄差戻
- 裁判官
- 山口厚、池上政幸、小池裕、木澤克之、深山卓也
- 原審裁判所
- 東京高等裁判所
AI概要
【事案の概要】 被告人は、複数の家電量販店において、他人(A)になりすまし、不正入手した健康保険被保険者証やA名義のクレジットカードを用いて、クレジット機能付きポイントカードの交付を受けた上、同カードで財布やゲーム機等を購入してだまし取ったとして、詐欺・窃盗・詐欺未遂の罪で起訴された。第一審(平成27年5月の犯行分)は有罪とし懲役2年6月・執行猶予4年を言い渡したが、同年3月の犯行分である本件公訴事実(詐欺3件)については、被告人の犯人性を認定するには合理的な疑いが残るとして無罪を言い渡した。 これに対し、検察官・被告人双方が控訴した。原判決(東京高裁)は、第一審の間接事実の推認力評価や証拠の総合評価に誤りがあるとして事実誤認を理由に第一審判決を破棄した上、控訴審で自ら事実の取調べを一切行わないまま本件公訴事実を有罪と認定し、被告人に懲役2年6月を言い渡した。原判決は、刑訴法400条ただし書に関する最高裁昭和31年7月18日大法廷判決等(本件判例)について、刑訴法の仕組みや運用の変化を踏まえれば、今日ではその正当性に疑問があり判例変更すべきと判示した。 【争点】 第一審が犯罪事実の存在を認定せず無罪を言い渡した事件において、控訴審が事実の取調べを行わず、訴訟記録と第一審で取り調べられた証拠のみに基づき、第一審判決を破棄して有罪の自判をすることが、刑訴法400条ただし書に反するか(本件判例を変更すべきか)が争われた。 【判旨(量刑)】 最高裁は原判決を破棄し、本件を東京高裁に差し戻した。 本件判例は、憲法31条・37条の保障する被告人の権利、及び直接審理主義・口頭弁論主義の原則を踏まえ、第一審が無罪を言い渡した事件について、控訴審が事実の取調べを経ずに訴訟記録等のみで犯罪事実を確定し有罪の自判をすることは刑訴法400条ただし書の許さないところとしたものであり、その後の最高裁判例の積み重ねにより、控訴審が第一審の無罪判決を破棄して犯罪事実を認定するときは事実の取調べを要するとの実務が確立してきた。 原判決が挙げる裁判員制度導入後の刑訴法の制度・運用の変化は、むしろ第一審において充実した審理・判断を行い、公判中心主義の理念のもと直接主義・口頭主義を実質化しようとするものであって、同じく直接主義・口頭主義の理念から導かれる本件判例の正当性を失わせるものではない。したがって本件判例は現在もなお変更すべきものとは認められず、一切の事実の取調べをせずに無罪判決を破棄して有罪を自判した原判決は、本件判例と相反する判断をしたものとして破棄を免れない。 本判決は、公判中心主義・直接主義の実質化という近時の刑事司法改革の流れを確認しつつ、無罪判決の事後審査における被告人の手続的権利保障が依然として重要であることを明らかにしたものであり、控訴審実務に重要な指針を与える判断である。