AI概要
【事案の概要】 本件は、椅子型マッサージ機に関する特許(特許第4617275号、請求項3項、権利者は被告ファミリーイナダ株式会社)について、原告である株式会社フジ医療器が特許無効審判を請求したところ、特許庁が「請求は成り立たない」との審決(無効2018-800043号)をしたため、原告がその取消しを求めた審決取消訴訟である。 本件特許の発明は、座部と背凭れ部を備えた椅子型マッサージ機において、背凭れ部の左右両側から前方に突出する一対の突起体を設け、その内側面に空気式マッサージ具を配置し、当該空気式マッサージ具が膨張して使用者の両腕の外側を押圧し胴体を挟みつつ、同時に機械式の施療子が背中を左右交互に叩く、というものである。 原告は審決の誤りとして、①本件補正における新規事項追加、②実施可能要件違反、③明確性要件違反、④進歩性判断の誤り(引用発明は意匠登録出願に係る「あんまいす」)の四点を主張した。 【争点】 主たる争点は、本件特許が無効理由(新規事項追加、記載要件違反、進歩性欠如)を有するかであり、特に進歩性との関係では、引用発明の「左右一対の弧状枠部材」に周知技術(甲13~15の空気袋による身体の挟み込み技術)を適用して、両腕及び胴体を挟み込む空気式マッサージ具の構成(相違点3)に容易に想到できたかが中心的な争点となった。また、構成要件H・Jにいう「それと同時に」との文言の意義・明確性も問題となった。 【判旨】 知財高裁第1部は、原告の請求を棄却した。 補正要件については、本件補正は出願当初の明細書段落【0027】【0028】に記載された技術的事項の範囲内であって新規事項の追加に当たらないとした。実施可能要件・明確性要件についても、構成要件Hの「同時に」は空気式マッサージ具の押圧動作と施療子の叩き動作が時を同じくして行われる意味として明確であり、制御手段の具体的開示がなくとも当業者は実施可能であると判断した。 進歩性判断においては、まず引用発明は本来甲9の1のみから認定すべきとしつつ、本件審決の認定には結論に影響する誤りはないとした。そのうえで、引用発明の左右両弧状枠部材は、使用者の幅方向外側への移動を規制するにとどまり、内側に向けて積極的に挟み込む機能を有するものではないと認定した。そして、甲13~15から認められる周知技術(空気袋で身体の一部を挟む技術)は、いずれも両腕及び両腕の間の胴体をその側方から挟み込むものではなく、引用発明の弧状枠部材に適用する動機付けも認められないとして、相違点3に係る構成の容易想到性を否定し、本件発明の進歩性を肯定した審決の結論を維持した。 本判決は、意匠公報を引用例とする進歩性判断において、引用発明の技術的課題・機能と周知技術の目的の同一性を厳密に検討し、課題の相違を理由に動機付けを否定した事例として、実務上の意義を有する。