AI概要
【事案の概要】 原告(インターブリッジ合同会社)は、発明の名称を「自律型小型無線装置及びその分散設置方法」とする特許出願(本願)を行ったが、特許庁は拒絶査定をした。原告は拒絶査定不服審判を請求するとともに特許請求の範囲について補正をしたが、特許庁は「本件審判の請求は成り立たない」との審決をした。これに対し原告が、同審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した事案である。 本願発明は、他電源受給路を有しない「着脱交換不能な」自律型電源(太陽電池を除く)と、それにより駆動される通信制御回路およびアンテナとを備え、通信制御回路がルーティング機能手段を有する固定設置型の自律型小型無線装置に関するもので、商用電源のない場所でも設置を可能とし、装置コスト・保守コストを低減することを目的としていた。特許庁は、本願発明は引用例10(ミニオンネットネットワーク技術に関する公表公報)記載の発明および引用例11記載の公知技術に基づき、当業者が容易に発明することができたから、特許法29条2項により特許を受けることができないと判断したものである。 【争点】 主たる争点は、(1)引用例10記載の発明が、当業者がその発明を実施できる程度に開示された「頒布された刊行物に記載された発明」(特許法29条1項3号)に該当するか、(2)本願発明の「ルーティング機能手段」を動的ルーティング(ダイナミック・ルーティング)に限定して解釈すべきか(一致点認定の誤り・相違点の看過の有無)、(3)引用発明に引用例11記載の技術を適用して電池を「着脱交換不能」な構成とすることが、当業者にとって容易に想到できるものかであった。 【判旨】 知的財産高等裁判所第4部は、原告の請求を棄却した。まず争点(1)について、引用例10には衝突回避手段が明確に開示されており、当業者が引用発明の自給ミニオン装置を製造・使用することができるから、引用発明は「頒布された刊行物に記載された発明」に該当すると判示した。本願発明は特許請求の範囲上、携帯電話網等の社会インフラでの実施を前提としているわけではないから、その程度の詳細な開示までは要求されないとした。 次に争点(2)について、本願発明の特許請求の範囲には「ルーティング機能手段」を動的ルーティングに限定する記載がなく、本願明細書にも限定を示唆する記載はないから、出願当時技術常識であった静的ルーティングおよび動的ルーティングのいずれもが含まれると解するのが相当であるとした。加えて引用例10の記載によれば、ミニオン装置は自律的にルーティングテーブルを生成・更新しており動的ルーティング機能を備えているといえるから、仮に限定解釈を前提としても一致点の認定に誤りはなく、相違点の看過もないと結論づけた。 争点(3)については、引用例10には使い捨てミニオン装置が示唆されており、ユニットの寿命に対し十分な電池寿命が得られる場合には電池を着脱可能とする必要がないから、着脱不能な構造とすることは設計上当然に考慮すべき事項であると認定した。加えてバッテリーを本体内に封止して外部交換・外部充電不能とすることは出願当時の技術常識であったから、相違点に係る本願発明の構成は当業者が適宜選択すべき設計的事項にすぎず、容易に想到できたと判示した。 本判決は、進歩性判断の前提となる刊行物記載発明の実施可能性の判断基準を示すとともに、請求項の文言に限定のない機能的手段について、明細書の記載を超えた限定解釈を排する姿勢を明らかにしたものであり、特許実務上参考となる裁判例である。