特許取消決定取消請求事件
判決データ
AI概要
本件は、リチウムイオン二次電池用の非水系電解液に関する特許(特許第5987431号、発明の名称「フルオロスルホン酸リチウム、非水系電解液、及び非水系電解液二次電池」)について、特許異議申立てを受けた特許庁が、当該特許の請求項1、2、4、6ないし22を取り消す決定をしたことに対し、特許権者である原告(三菱ケミカル株式会社)がその取消しを求めた事件である。 【事案の概要】 原告の前身である三菱化学株式会社は、平成24年、フルオロスルホン酸リチウム等を含有する非水系電解液に関する発明について特許出願をし、平成28年に特許権の設定登録を受けた。その後、第三者から特許異議の申立てがされ、原告は訂正請求を行ったが、特許庁は本件訂正を認めた上で、本件特許は特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明に記載したものであるとのサポート要件(特許法36条6項1号)に適合しないとして、請求項1、2、4、6ないし22に係る特許を取り消す決定をした。原告は、当該決定の取消しを求めて本件訴訟を提起した。 【争点】 特許庁による本件各請求項に係る発明の課題の認定が相当か、また、本件明細書の記載及び出願時の技術常識から、当業者が発明の課題を解決できると認識できるか、というサポート要件適合性の判断に誤りがあるかが主な争点となった。特に、本件発明の課題を「添加剤を含有しない電解液に対する電池特性の改善」と広く捉えるべきか、「実施例で確認された複数の電池特性の同時改善」と限定的に捉えるべきかが問題となった。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、本件明細書の記載に照らし、本件訂正発明の課題は、フルオロスルホン酸リチウム等を添加剤として含有しない非水系電解液に対して初期放電容量等の電池特性を改善する非水系電解液を提供することにあると認定し、特許庁の課題認定を誤りと判断した。その上で、実施例の基本電解液と本件発明の一般的な電解液との互換性、添加剤による電極表面への被膜形成が特定の電解液との相互作用によらないという技術常識を踏まえ、当業者は実施例の記載及び出願時の技術常識に基づき、本件発明の発明特定事項の全体にわたり課題を解決できると認識できると判断した。したがって、本件各訂正発明はサポート要件に適合するとし、特許庁の決定のうち請求項1、2、4ないし22に係る部分を取り消した。なお、削除された請求項3の特許に係る部分の取消しを求める訴えは、訴えの利益を欠くとして却下した。本判決は、化学分野の数値限定発明について、明細書記載の課題を適切に把握し、実施例の範囲を超える数値範囲についても技術常識を踏まえてサポート要件充足を認めた事例として、実務上重要な意義を有する。