難民不認定処分取消等請求控訴事件
判決データ
- 事件番号
- 平成30行コ232
- 事件名
- 難民不認定処分取消等請求控訴事件
- 裁判所
- 東京高等裁判所
- 裁判年月日
- 2020年1月29日
- 裁判種別・結果
- その他
- 裁判官
- 野山宏、橋本英史、片瀬亮
- 原審裁判所
- 東京地方裁判所
AI概要
【事案の概要】 本件は、旧ソ連で出生し旧ソ連国籍を有していたが、旧ソ連崩壊の際に無国籍となった原告(アルメニア民族)が、①難民不認定処分の取消し、②在留特別許可をしない処分の無効確認、③退去強制令書発付処分(送還先をジョージアと指定)の無効確認を求めた事案です。 原告は1967年にジョージア・ソヴィエト社会主義共和国の首都トビリシで出生し、同地を常居所地として成長しました。父がアルメニア民族であったため、父系主義により原告もアルメニア民族として扱われていました。1991年のジョージア独立とガムサフルディア政権下では、ジョージア民族優位擁護政策がとられ、警察が非ジョージア民族の犯罪申告を受理せず、逆に脅迫や財産強奪を行うなどの組織的な差別・排斥政策が公然と実行されました。原告は1993年にジョージアを脱出した後、ロシア、ポーランド、ドイツ、フランス、スペイン、ノルウェー、アイルランド、英国など各国を転々とし、2010年に偽造旅券で来日、直後に難民認定を申請しましたが不認定とされました。 第一審は原告の請求をすべて棄却し、原告が控訴しました。 【争点】 主要な争点は、①原告がジョージアの独立前後におけるアルメニア民族差別・排斥政策により「人種を理由とする迫害」を受けていたといえるか、②現時点でも迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖があるか(ジョージアは現在原告の受入意思を有していないと認められるか)、③送還先をジョージアと指定した退去強制令書発付処分に重大明白な瑕疵があるか、入管法53条2項の「本人の希望により」送還先を定める規定の解釈、の4点です。 【判旨】 東京高等裁判所は、原判決を変更し、難民不認定処分の取消しと退去強制令書発付処分の無効確認を認めました。 まず難民該当性について、ガムサフルディア政権下のジョージアでは政府が組織的に非ジョージア民族排斥政策を実行し、警察が原告の被害申告を受け付けず、逆に米ドル現金を強奪するなど、原告は「生計の基盤を破壊されて生存権が著しく侵害され、生存の危機に追いやられるという公的かつ組織的な迫害」を受けたと認定しました。また、原告の経歴を証明する公的記録が存在せず、外見・氏名からアルメニア民族と判断されることから、ジョージア政府は現時点でも原告の受入れに極度の警戒心を抱き受入意思を有しておらず、ジョージアで生計を立てることを拒否し続けていると評価。これにより、原告には迫害を受けるおそれがあるという主観的・客観的に十分に理由のある恐怖があると認め、難民条約上の「人種を理由に迫害を受けるおそれ」を有する無国籍者として難民に該当すると判示しました。 退去強制令書発付処分については、難民である事実を見落とした裁量権の逸脱・濫用があり、受入国がない無国籍者に退去強制令書を発付すれば原告が地球上で行き場を失うことは一見明白であったとして、重大明白な瑕疵があり処分全体が無効であると判断しました。また、入管法53条2項の「本人の希望により」の解釈について、希望しない国を送還先として指定することを絶対的に禁じたものとは解されないものの、希望しない理由に相応の合理性があるときにその国を送還先と指定することは明らかに合理性を欠くとして、送還先をジョージアと指定する部分も無効であると判示しました。 他方、在留特別許可をしない処分については違法であるとしつつも、処分時点における重大明白な瑕疵があったとまではいえないとして、無効確認請求は棄却されています。本判決は、無国籍者の難民該当性の判断、とりわけ常居所地国の受入拒否それ自体を迫害として評価した点、及び入管法53条2項の解釈を示した点で、実務上重要な意義を有します。