仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件
判決データ
- 事件番号
- 令和1ラ550
- 事件名
- 仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件
- 裁判所
- 大阪高等裁判所
- 裁判年月日
- 2020年1月30日
- 裁判官
- 山下郁夫、杉江佳治、細野なおみ
- 原審裁判所
- 大阪地方裁判所
AI概要
【事案の概要】 本件は、関西電力大飯原子力発電所3号機・4号機の運転差止めを求めた仮処分命令申立事件の抗告審である。抗告人(住民)は、本件原発が核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(原子炉等規制法)の求める安全性を欠いているため、事故発生によって自己の生命、身体、健康及び平穏生活権という人格権が侵害され取り返しのつかない損害を被るおそれがあると主張し、人格権に基づく妨害予防請求権を被保全権利として、本件原発の運転の仮差止めを求めた。原審(大津地裁系統)は被保全権利の疎明がないとして申立てを却下したため、抗告人が即時抗告した。本件では、福島原発事故後に新設された原子力規制委員会が策定した新規制基準(設置許可基準規則)に基づく本件基準地震動の策定が、最新の科学的・技術的知見に照らして合理性を欠くかどうかが中心争点となった。特に、震源断層面積から地震モーメントを算定する経験式である「入倉・三宅式」が、垂直に近い断層について地震動を過小評価するおそれがあるとする島崎邦彦・元原子力規制委員会委員長代理の指摘、及び平成28年12月に行われた地震本部レシピの修正が、従来の震源断層モデルの設定方法の位置付けを変更したものかどうかなどが争われた。 【争点】 主要な争点は、(1)原子力発電所の運転差止請求における司法審査の在り方と主張立証責任の所在、(2)本件基準地震動の策定が原子力規制委員会の定めた安全性の基準に適合するか、特に入倉・三宅式の採用及び各種パラメータ設定の保守性、(3)平成28年12月の地震本部レシピ修正の趣旨とその射程である。 【判旨】 大阪高裁は抗告を棄却した。まず、原子力発電所には「絶対的安全性」ではなく、放射性物質による被害発生の危険性が社会通念上無視し得る程度にまで管理された「相対的安全性」が求められるとし、専門性・独立性が確保された原子力規制委員会が策定した基準は、その過程及び内容に不合理な点がない限り求められる安全性を具体化したものと解すべきとした。主張立証責任については、人格権に基づく差止請求の原則からは抗告人が負担するが、設置者である相手方が資料を独占保有する実情に照らし、まず相手方が安全性基準への適合を相当の根拠・資料に基づき主張立証し、これが尽くされない場合は危険性が事実上推認される一方、主張立証が尽くされたときは抗告人側で基準自体又は判断の合理性欠如を立証すべきとする審理の枠組みを示した。その上で、入倉・三宅式は震源断層面積と地震モーメントの関係式として信頼性を有し、熊本地震本震の解析結果によっても裏付けられており、島崎氏の比較手法は式の本来の用途を超えた比較であって過小評価の根拠とはならないと判断した。また、FO-A~FO-B~熊川断層について7ケース、上林川断層について2ケースの不確かさを重畳させた検討を行っている点など、各種パラメータ設定は十分に保守性を有するとした。さらに、平成28年12月のレシピ修正は、詳細な震源断層調査結果に基づく方法と、地表活断層長から簡便に設定する方法という二つの方法の位置付けを変更するものではないとして、抗告人の主張を排斥し、本件原発が安全性を欠くとは認められないと結論付けた。