特許権侵害差止等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、焼肉店向けの「加熱調理部付きテーブル個別排気用の排気装置」に関する特許権2件を保有する原告(株式会社野田ハッピー)が、被告3社(被告サンタ、被告東産業、被告山岡金属)による別紙被告製品目録記載の製品(商品名「ワンショットフード」)の製造・販売等が自己の特許権を侵害すると主張し、特許法100条1項・2項に基づく製造等の差止め、半製品・金型の廃棄、及び民法709条・特許法102条2項に基づく損害賠償(合計9億6800万円)の支払いを求めた特許権侵害差止等請求事件である。 本件特許は、焼肉店等で使用される加熱調理部付きテーブル個別排気装置について、従来の「フード構造」ではなく、パイプの先端部開口のみからなる小型の吸引端を、加熱調理部から立ち上る熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置に臨ませるという構成を特徴とするものである。これにより、少ない風量で効率的に煙や熱気を排気でき、飲食の邪魔にならず、空調コストも抑えられるとされた。原告は出願後に訂正審判請求を行い、請求項1の範囲を「焼き網を備えた焼肉用の炭火コンロまたはガスコンロ」に限定する訂正が認められていた。 【争点】 主要な争点は、(1)被告製品が本件各発明の技術的範囲に属するか(「先端部開口のみで形成」「熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置」「吸引端を上下動させるように形成」の各充足性)、(2)本件特許1・2が特許無効審判により無効とされるべきものか(実施可能要件違反、新規性欠如、明確性要件違反)、(3)損害の数額であった。裁判所は事案に鑑み、まず実施可能要件違反の有無から判断した。 【判旨】 東京地裁民事第46部は、原告の請求をいずれも棄却した。 裁判所はまず、本件訂正発明1の構成要件1-1E「熱気流の上部を包み込むことのできる高さ位置」について、本件明細書1の記載及び図面からすると、「熱気流の上部」とは加熱調理部の上方に立ち上る三角形状の熱気流の上端部を意味すると解した。そのうえで、本件発明を実施するためには排気装置の吸引端を「熱気流の上部」に臨ませる必要があり、そのためには当業者が熱気流の上部を検知できなければならないと述べた。 しかし、熱気流そのものは目視できないところ、通常のカメラで撮影した動画によれば、加熱調理部から発生する煙は上方に行くに従って徐々に拡散するのみで、明細書の図に示された三角形状のように収束する様子は見られないと認定し、煙の動きを観察しても「熱気流の上部」の位置を特定することはできないとした。また原告はサーモグラフィーによる検知が可能であると主張したが、気体は赤外線放射エネルギー量が小さくサーモグラフィーは気体の温度測定に適さないこと、原告提出動画で観察される三角形状の高温部分は熱気流の一部のみを捉えた可能性があり、また煙の流れる形状とも異なることから、サーモグラフィーによって熱気流の上端部を認識できるとは認められないと判断した。 以上より、本件明細書1には、当業者が「熱気流の上部」を検知して本件訂正発明1を生産・使用できる程度に明確かつ十分な記載があるとはいえず、実施可能要件(平成14年法律第24号による改正前の特許法36条4項)に違反すると判示した。本件発明2についても、構成要件2Eは本件訂正発明1の構成要件1-1Eと実質的に同じであり、本件明細書2の記載も本件明細書1と同じであるから、同様に実施可能要件違反があると判断した。 その結果、本件各特許は特許無効審判により無効にされるべきものと認められるため、原告は特許法104条の3第1項により本件各特許権を行使することができず、その余の争点について判断するまでもなく原告の請求はすべて理由がないとして棄却された。本判決は、明細書中に機能的・抽象的な位置要件(「熱気流の上部」)が記載されている場合に、その位置を当業者が現実に検知・特定できるだけの技術的開示がなければ実施可能要件違反となることを示した事例として意義がある。