特許権侵害損害賠償請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、「流体供給装置及び流体供給方法及び記録媒体及びプログラム」に関する特許権(特許第4520670号)を共有する原告(コスモ石油マーケティング)が、被告(給油所機器メーカー)に対し、被告が製造販売するガソリンスタンド用の設定器(商品名「POS21」)とそこに保存されるプログラムが本件特許の請求項1ないし3および8の技術的範囲に属するとして、特許法100条に基づく製造販売の差止め・廃棄、および民法709条に基づく損害賠償(一部請求約28億円)を求めた事案である。 本件特許発明は、電子マネーやプリペイドカードなどの記憶媒体を用いる給油装置において、給油開始前に媒体の残高以下の金額を入金データとして取り込んで媒体側から差し引き、給油終了後に実際の給油量に応じた料金との差額を媒体に戻す仕組みを定めたものである。これにより、給油中に媒体を機械に挿入したままにする必要がなく、置き忘れや盗難を防ぎつつ、顧客が給油中に媒体を他の用途に使えるという作用効果を持つ。 被告設定器は電子マネー対応の給油装置を構成するもので、返金額を算出する過程において、本件特許が規定する「入金額-実給油量相当額」ではなく、「油の単価×(選択された給油量-実際の給油量)」という計算式を用いていた点が、文言侵害の成否の焦点となった。 【争点】 主な争点は、(1)被告給油装置・被告プログラムが本件発明1ないし3および8の技術的範囲に属するか(文言侵害および均等侵害の成否)、(2)被告設定器の販売が特許法101条1号の間接侵害に該当するか、(3)本件特許が引用発明1ないし3との関係で進歩性を欠き無効理由を有するか、(4)特許法102条2項・3項に基づく損害額および推定覆滅の程度、である。とりわけ、構成要件1F2の「差し引き」の解釈として、被告が採る「単価×(選択量-実給油量)」という数学的に等価な別ルートの計算が文言上「差し引き」に含まれるかが中心的に争われた。 【判旨】 東京地裁民事第46部は、構成要件1F2の「差し引き」は「入金データの金額」から「演算された料金」を減ずるという特定の減算式を意味するから、給油されなかった残給油量に単価を乗じる方式を採る被告給油装置は文言上は充足しないと判断した。もっとも、両計算式は数学的に単純変換で同値となり、本件発明の本質的部分は記憶媒体を機械に挿入し続けなくて済むという精算方式自体にあって、具体的な計算ルートの違いはその特徴的部分ではないとして、均等侵害の第1要件から第5要件をいずれも満たすと認定し、被告給油装置および被告プログラムはそれぞれ本件発明1ないし3および8の技術的範囲に属すると結論付けた。間接侵害については、被告設定器は被告プログラムが保存された形で被告給油装置の生産にのみ用いる物に該当するとして特許法101条1号の適用を肯定し、無効の抗弁については引用各発明との組合せによる進歩性欠如はいずれも認められないとして退けた。損害については、特許法102条2項による推定利益について、旧EMG系列ガソリンスタンドをめぐる市場の特殊事情と被告の独占的指定関係から40パーセントの覆滅を認めたうえで、覆滅部分については同条3項に基づき実施料率5パーセントによる損害を重畳的に認め、弁護士費用3500万円を加えた合計4億5054万3000円の支払および被告設定器からの被告プログラムの除却等を命じた。