AI概要
本件は、プロボクシング界の管理統括団体である一般財団法人日本ボクシングコミッション(JBC)が、Cジムの会長のクラブオーナーライセンス及びプロモーターライセンス、並びに同ジムのマネージャーライセンスについて更新を不許可とする処分を行ったことに関する損害賠償請求訴訟である。Cジムに所属していた元プロボクサー2名、現役プロボクサー1名の合計3選手と、彼らの試合を興行する会社が原告となり、JBC、その理事長、事務局長代行、事務局長その他理事らを被告として、違法な処分により日本国内で試合を行うことができなくなり、ファイトマネーや興行収入を失ったとして、不法行為又は一般社団法人及び一般財団法人に関する法律198条が準用する同法117条1項に基づく理事の第三者責任による損害賠償を求めた。 本件処分の発端は、平成25年12月3日開催のIBF・WBA世界スーパーフライ級王座統一戦である。挑戦者Gが計量失格となった後のルールミーティングにおいて、原告選手が敗戦した場合のIBF王座の帰趨が議論されたが、その後の記者会見でIBF役員が誤って「王座は空位になる(空位説)」と発言したため、マスコミはこれを前提に報道した。しかし試合後、原告選手側のマネージャーFは「勝敗にかかわらず王座を保持する(保持説)」という訂正記者会見を開き、IBF役員も前日の発言を撤回した。この経緯がJBCの信用毀損を招いたとして、JBCは資格審査委員会兼倫理委員会を設置し、関係者のライセンス更新を不許可とする処分を下した。 【争点】 本件の主要な争点は、(1)本件処分の違法性及びJBCの責任の有無、(2)処分に関与した理事長・事務局長代行・事務局長・会長及びその他非執行理事各人の個人責任(不法行為責任又は理事の第三者責任)の有無、(3)処分と原告らの損害との相当因果関係、(4)過失相殺の可否である。特に、試合ルール11条3項が定める「ライセンス更新は特別の事情のない限り許可される」という原則に照らし、本件処分の裁量逸脱・濫用の有無が中核的論点となった。 【判旨】 東京地裁は、本件試合に適用されたルールについて、IBFルールブックの配布・署名状況、IBFの公式回答、訂正記者会見の経緯等を総合し、保持説が採用されていたと認定した。その上で、マネージャーが「王座の帰趨に無関心」であったとする処分理由は事実と異なり、IBFにおいて決定すべき王座の取扱いを説明した訂正記者会見もJBCへの背信行為とはいえず、クラブオーナーについても報道を監視すべき義務はなかったとして、処分理由はいずれもライセンス更新を不許可とすべき「特別の事情」に当たらないと判示した。そして、所属ボクサーが国内で試合できなくなるという重大な不利益を伴う処分は裁量権に一定の制約があるとした上で、本件処分は客観的合理性を欠き社会通念上相当性を認められないとして、裁量権の逸脱・濫用があり違法であると結論付けた。法務アドバイザーの関与があっても、その助言を十分検討しなかった以上、処分を正当化するものではないとした。 個人責任については、処分を主導した理事長、処分に賛同した事務局長代行、及び事務局長として試合ルールを把握すべき立場にありながら怠った事務局長の3名について過失又は重過失を認め、不法行為責任及び理事の第三者責任を肯定した。他方、非執行理事であった会長及び他の理事2名については、業務執行に関与せず詳細を把握する立場になかったとして、重過失までは認められず責任を否定した。損害については、処分が平成26年分のライセンスに限定されることや選手の試合機会の不確実性を考慮し、前年の試合実績を基準に各選手750万〜1200万円、興行会社1500万円の範囲で相当因果関係ある損害と認定し、原告らの請求を一部認容した。本判決は、競技統括団体による裁量処分の司法審査の在り方と、公益的法人における非執行理事の監視義務の限界を示した実務的意義のある事例である。