AI概要
【事案の概要】 検察官は、被告人が平成29年1月13日午後11時10分頃から同日午後11時30分頃までの間、東京都町田市の被告人方において、生後1か月の長男Aの頭部を揺さぶるなどの暴行を加え、蘇生後脳症の後遺症を伴う急性硬膜下血腫、脳浮腫、左眼網膜出血、多発性肋骨骨折等の傷害を負わせ、同年3月22日にAを肺炎により死亡させたとして傷害致死罪で起訴した。被告人は捜査当初から一貫して揺さぶる暴行を加えた事実はないと供述し、乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)類似の所見の評価が争われた。 【争点】 本件の中核的争点は、Aに生じた多発性急性硬膜下血腫、延髄・頸髄の損傷、脳浮腫、多層性・多発性網膜出血、多発性肋骨骨折(本件各傷害)が、被告人による揺さぶる暴行のみによって生じたと断定できるかである。被告人が揺さぶる暴行を加えたと認定し得る直接証拠はなく、傷害の発生機序から犯行を推認できるかが問題となった。 【判旨(量刑)】 東京地裁立川支部は、被告人を無罪とした。裁判所は、Aの生後から本件当日までの間に被告人が暴力的行為に及んだ形跡はなく、本件当日も家族円満に過ごし、元妻が入浴後に容体急変を発見した際、Aの体勢やベッドの状況に変化がなかったことなど、揺さぶる暴行をうかがわせる事情は見当たらないと認定した。 本件各傷害の機序については、硬膜下血腫は右側頭部打撲や心臓マッサージによる外力で生じた可能性、延髄・頸髄損傷は約50分の心肺停止に伴う虚血・低酸素で生じた可能性、網膜出血は頭蓋内圧亢進による可能性、肋骨骨折は体重95kgの被告人による強い心臓マッサージによる介達性骨折の可能性がそれぞれ医学的に合理的に説明可能であるとした。心肺停止の原因についても、ミルク誤嚥や喉頭化学反射の誤作動による無呼吸(ALTE)の可能性が指摘できるとした。 直接証拠がなく高度に専門的な立証を要する傷害致死事件では、傷害結果の医学的説明可能性のみでなく、被害者の年齢、事件前の暴行の有無、事実経過、動機、事件後の言動等を総合検討し、常識に照らして犯行が間違いないと認められるかを判断すべきとし、被告人が揺さぶる暴行を加えたと認めるには合理的疑いが残るとして、刑訴法336条により無罪を言い渡した(求刑懲役8年)。