AI概要
【事案の概要】 名古屋市交通局のb工場に若年嘱託職員として勤務していたa(当時32歳)は、平成25年4月の採用直後から同じ台車B班のhサブチーフより「お前なんかあっち行っとれ」「いつまでこの職場にいるんだ」「辞めろ」などと繰り返し強圧的な言動を受け続けた。aは平成25年8月に精神科を受診し、平成26年3月にはカウンセリングを自発的に受けるなどしていたが、精神的支えであったfチーフが平成26年10月に異動して以降、抑うつ気分等のうつ病エピソードの症状が顕在化。平成27年3月のピニオン蓋変形事故、同年4月の油漏れ事故を経て、同月10日にgチーフ及びhサブチーフから正規職員になれない可能性を示唆され損害額を突きつけられる等の面談(本件面談)を受けた3日後、自動車内で練炭を燃焼させ一酸化炭素中毒により自殺した。aの母である原告が、交通局には安全配慮義務違反があったとして、被告(名古屋市)に対し債務不履行又は国家賠償法1条1項に基づき約9056万円の損害賠償を求めた。 【争点】 争点は、(1)被告の責任原因(勤務と自殺との因果関係、安全配慮義務違反の有無、予見可能性)、(2)損害の発生及びその額、(3)過失相殺等による賠償額減額の可否である。被告は、aが定期面談や相談窓口でいじめを申告しておらず予見可能性はなく、aの不申告や同居する原告が異変に気付かなかった点から過失相殺すべきと主張した。 【判旨】 名古屋地裁は、hサブチーフの長期にわたる強圧的言動は指導として正当化する余地がなく過重な心理的負荷を与え続けるもので、iサブチーフ・fチーフから管理職への問題提起もあり被告はこれを認識可能であったと認定。本件面談もaの自信を失わせ職場で孤立させる糾問的な態様で業務上の指導の相当性を逸脱したものと判断し、遅くとも本件面談時点で精神障害発病・自殺の予見可能性を肯定した。そしてaは軽症うつ病エピソードを発病し、本件面談を最終的契機として自殺に至ったものと認め、被告の安全配慮義務違反・国家賠償法上の違法と本件自殺との相当因果関係を認めた。損害については葬儀費用100万5318円、慰謝料2500万円、逸失利益4083万4611円、弁護士費用670万円を認容する一方、aの不申告や原告の不注意を理由とする過失相殺の主張はいずれも排斥し、被告に合計7353万9929円及び遅延損害金の支払を命じた(一部認容)。職場におけるパワーハラスメントを起因とする自殺について、地方公共団体の安全配慮義務違反を正面から認めた裁判例である。