AI概要
【事案の概要】 本件は、被告人が平成31年2月7日、名古屋市内のスーパーマーケットで食料品24点(販売価格合計2592円)を万引きして窃取したという窃盗罪の事案である。被告人には、窃盗(万引き)による前科として、平成13年に起訴猶予、平成20年に罰金20万円、平成26年に懲役1年・3年執行猶予、平成27年に懲役1年・5年保護観察付執行猶予の処分歴があり、本件は二度目の執行猶予期間中の犯行であった。被告人は神経性過食症、窃盗症(クレプトマニア)、解離性障害の疑いがあると診断されており、責任能力の有無及び程度が争われた。 【争点】 主たる争点は、被告人の責任能力の有無と、再度の執行猶予(刑法25条2項)を付すべき「情状に特に酌量すべきもの」があるか否かである。弁護人は、被告人が神経性過食症・窃盗症・解離性障害により事理弁識能力及び行動制御能力がほぼ喪失した心神喪失ないし心神耗弱状態にあった合理的疑いが残ると主張した。これに対し、弁護人依頼のE医師は疾病の影響を重く評価する一方、起訴前簡易鑑定のF医師は巧妙な手口から抑制機能の障害はないと述べるなど、精神科医の意見が対立した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、鑑定の基礎資料・面談時間等を踏まえ、E医師の診断を基本的に尊重すべきとしたうえで、被告人が食料品のみを選別し、警備員に声を掛けられると後ずさりするなど周囲の状況に応じて行動していたことから、自身の行為の意味及び違法性を理解し衝動を一定程度制御していたと認定し、完全責任能力を肯定した。 量刑については、本件が二度目の執行猶予期間中の犯行であり規範意識の鈍麻は著しく犯情は悪いとしつつ、被害額が少額で弁償済みであること、精神的問題に対する専門的治療を継続していたこと、保護観察が仮解除されるまでに更生努力を重ねていたこと、本件犯行は神経性過食症・窃盗症の影響を大きく受け責任非難の程度が相当減じられること、保釈後も入院治療と専門寮入所により治療環境・治療意欲が整っており再犯防止が十分期待できることを指摘し、刑罰より治療を優先すべき事案と判断した。結論として、刑法25条2項を適用し、被告人を懲役1年に処したうえで、5年間刑の執行を猶予し、猶予期間中保護観察に付した(求刑懲役1年6月)。