AI概要
【事案の概要】 本件は、平成23年3月11日の東北地方太平洋沖地震に伴う津波により、東京電力福島第一原子力発電所が損壊し放射性物質が放出された事故(本件事故)に関し、事故当時、政府による避難指示等の対象とされなかった福島県中通り地域(福島市、郡山市、伊達市、田村市、二本松市等。中間指針追補において「自主的避難等対象区域」とされた区域)に居住していた原告ら52名が、精神的損害及び一部原告は財産的損害を被ったと主張し、東京電力(被告)に対し、原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)3条1項本文に基づき、一人当たり110万円から911万2496円の損害賠償金(請求額合計約9993万円)及び遅延損害金の支払を求めた事案である。原賠法3条1項は原子力事業者に無過失責任を課すもので、責任原因自体は争いがなく、専ら損害論が争点となった。 【争点】 主たる争点は、①本件事故と相当因果関係のある原告らの損害額(被告による裁判外の賠償金(中間指針追補に基づく自主的避難等対象者への賠償)を超える精神的損害が認められるか、原告らが主張する34項目の精神的損害が独立の慰謝料を基礎付けるか、平穏生活権等の被侵害利益が認められる期間はいつまでか)、②既払金による弁済の抗弁の成否及び弁済額、③ADR和解を経た一部原告らについての清算合意の効力である。原告らは、低線量被ばくによる健康影響への不安や自主的避難に伴う生活の変化等から、平均的な人を超える強い精神的苦痛を被ったと主張したのに対し、被告は、客観的な健康影響は生じておらず、慰謝料は中間指針等に基づく賠償で足りると反論した。 【判旨】 福島地裁は、本件事故発生当初の情報混乱期においては自主的避難等対象区域の住民にも平穏生活権侵害による精神的損害が生じ得るとしつつ、遅くとも平成23年4月22日頃までに放射線に対する相当程度の不安を抱かざるを得ない状況は解消し、その後の低線量被ばくによる健康被害の不安は抽象的・主観的なものにとどまるとした。原告らが主張する34項目の精神的損害の多くは、放射線被ばくへの恐怖・不安や平穏生活権侵害に収斂され、慰謝料目安の判断過程で考慮済みと評価した。その上で、各原告の個別事情(事故時の居住地、年齢、家族構成、避難状況等)を具体的に検討し、本件事故と相当因果関係のある精神的損害について慰謝料額を算定。被告による既払金及びADR和解による清算合意分を控除して認容額を確定した。結論として、ADR和解で清算済みの原告番号33及び34の請求は棄却し、その余の原告らの請求については、別紙3認容額等一覧表の範囲で一部認容し、平成23年3月11日からの年5分の遅延損害金とともに支払を命じた。