AI概要
【事案の概要】 原告(株式会社ブリヂストン)が、被告ら(ミシュラン関連2社)が特許権者である「高コントラストタイヤパターン及びその製作方法」に関する特許(特許第5642795号)について、特許庁に無効審判(無効2016-800115号)を請求したところ、被告らによる訂正請求が認められた上で、請求項1〜6に関する無効審判請求を成り立たない、請求項7に係る請求を却下とする旨の審決が下されたため、原告がその審決の取消しを求めた事案(審決取消請求事件)である。本件特許は、タイヤ可視面に微細なタフトまたはブレードを密に配置し、壁面に5μm〜30μmの平均粗さRzを付与することで、高いコントラストを実現するタイヤに関するものであった。 【争点】 取消事由は4点あり、主な争点は、(1)請求項3に下位事項を付加する訂正が明細書に記載した事項の範囲内と認められるか(訂正要件)、(2)本件発明の明確性・サポート要件・実施可能要件の充足性、(3)甲1発明(細溝パターンを持つ空気入りタイヤ)に甲2文献(タイヤ外表面への表面粗さ付与技術)の記載事項を組み合わせて本件発明3に想到することが容易か、(4)同様に甲3発明(繊維状物パターンを持つタイヤ)と甲2文献から本件発明1等に容易に想到し得たかであった。進歩性判断における組合せの動機付けの有無と、阻害要因の存否が核心であった。 【判旨】 知的財産高等裁判所第3部は、訂正要件に関する取消事由1については、明細書の段落【0055】【0057】等の記載を総合すれば、ブレードの高さの下四分の一に所望の粗さを有する構成が開示されていると認められるとして理由がないとした。他方、進歩性に関する取消事由3・4については、甲1発明および甲3発明はいずれも甲2文献と同様にタイヤサイドウォール部の視認性向上を課題としており、外観の経時劣化抑制という甲2文献の課題は全てのタイヤに共通するものであるから、両者を組み合わせる動機付けが十分に存在すること、甲1発明に甲2の粗面部を適用しても表示マークの識別性が必ず低下するとはいえず阻害要因は認められないこと、本件発明の数値範囲には臨界的意義がなく顕著な作用効果も認められないことから、当業者は容易に本件発明の構成に想到し得たと判断した。よって、進歩性を否定しなかった本件審決は誤りであるとして、取消事由2について判断するまでもなく、本件審決のうち請求項1〜6に係る部分を取り消した。本判決は、引用発明の組合せの動機付けを共通する上位の課題から柔軟に認定し、数値限定発明における臨界的意義の立証の厳格性を示した実務上重要な事例である。