AI概要
【事案の概要】 本件は,創傷被覆材用表面シートに関する特許(特許第5180410号)について,無効審判請求人である原告(イワツキ株式会社)が,特許庁による無効審判請求不成立の審決の取消しを求めた審決取消訴訟である。本件特許は,被告(株式会社瑞光)が保有するもので,湿潤療法に用いる創傷被覆材において,第1表面の生理食塩水との接触角を85度以上とし,低密度ポリエチレン樹脂材料を用いた特定寸法の貫通孔を有する表面シートを特徴とする。原告は,先行文献(甲1文献,甲10文献等)に基づき進歩性が欠如すること,及び「接触角85度以上」の記載につきサポート要件違反があることを主張した。特許庁は,本件訂正を認めたうえで無効審判請求を不成立とし,原告が審決取消訴訟を提起した。 【争点】 (1) 甲1文献記載の発明に,甲10文献等の技術的事項を組み合わせることにより,本件発明の相違点(貯留空間を有する貫通孔構成等)を当業者が容易に想到し得たか。(2) 「接触角が85度以上」との特許請求の範囲の記載が,発明の詳細な説明に開示された発明の範囲内にあり,サポート要件に適合するか。 【判旨】 知財高裁第3部は,原告の請求を棄却した。進歩性について,甲1発明(傷手当用品の被覆層)は液体を吸収層へ移動させる機能を有する単層構造であるのに対し,甲10文献は創傷面との間に貯留空間を形成し滲出液を保持するため複数層構成を採用しており,技術思想が異なるから,甲10文献から第1層の貫通孔に関する構成のみを取り出して甲1発明に適用する動機付けは見出せないとした。湿潤環境維持が周知課題であったこと等は認めつつも,具体的な貫通孔構成の組合せについて当業者の容易想到性を否定した。サポート要件については,本件明細書の記載とJIS K 2396等の技術常識に照らせば,当業者は「接触角85度以上」がθ/2法により液滴法で測定開始直後の液面振動後に速やかに測定される動的接触角を意味することを理解でき,実施例・比較例の測定結果も示されていることから,特許請求の範囲の記載は発明の詳細な説明に記載された発明であって課題解決の範囲内にあるとして適合性を認めた。本判決は,先行文献から構成要件の一部のみを切り出して主引用発明に適用することの動機付け判断において,両文献の技術思想の異同を重視する知財高裁の進歩性判断枠組みを示したものとして実務的意義を有する。