AI概要
【事案の概要】 本件は、北海道虻田郡で保険医療機関(診療所)を開設・運営する医療法人社団である原告が、脳梗塞急性期治療薬であるエダラボン点滴静注液を2名の患者にそれぞれ1回ずつ投与したとして、国民健康保険の保険者から委託を受けて診療報酬の審査・支払業務を行う被告(北海道国民健康保険団体連合会)に対し、診療報酬合計2625円(1316円及び1309円)並びに各弁済期の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求めた事案である。 本件医薬品の添付文書には、用法・用量として「通常、成人に1回1袋(エダラボンとして30mg)を30分かけて1日朝夕2回の点滴静注を行う。発症後24時間以内に投与を開始し、投与期間は14日以内とする。」と明記されていたが、原告は、患者らに対し1日1回のみの投与にとどめていた。被告の審査委員会は、当該投与を不適当又は不必要なものと判断して保険点数を減点し、診療報酬を支払わないこととしたため、原告が訴訟提起に至った。 【争点】 本件各投与が、保険医療機関及び保険医療養担当規則(療養担当規則)に従った「療養の給付」に該当し、被告に診療報酬支払義務が生じるかが争点となった。 原告は、脳梗塞発症後24時間以内に1回目を投与しておけば転院先等で2回目投与が可能であり、症状悪化がなければ2回目投与は不要にすぎないこと、入院可能病院が遠方にしかない地域の特殊性、過去に被告が1日1回投与にも診療報酬を認めていた実績等を挙げ、本件投与は療養担当規則20条2号イの「必要があると認められる場合」に該当すると主張した。これに対し被告は、添付文書所定の用法・用量に明確に違反しており、1日1回投与は臨床試験・臨床成績上も想定されていないとして、支払義務を争った。 【判旨】 札幌地方裁判所は、原告の請求をいずれも棄却した。 裁判所は、療養担当規則上、医薬品の投与は厚生労働大臣の定める医薬品について行われることが求められ、医薬品は医薬品医療機器等法14条に基づき用法・用量等について厚生労働大臣の承認を経て製造・販売される以上、原則として承認に係る用法・用量に従った使用のみが許容され、その用法・用量は添付文書に記載されることから、医薬品投与が療養担当規則に従った「療養の給付」と認められるためには、添付文書記載の用法・用量に合致することを要すると判示した。 その上で、本件医薬品の添付文書には「1日朝夕2回」と明記されており、他の医薬品にみられるような「適宜増減」等の柔軟な記載もないこと、先発医薬品の審査報告書でも1日2回投与が適正とされ1日1回投与は想定外であったことから、1日当たりの投与回数を減じることは想定されていないと認定し、本件各投与は添付文書記載の用法・用量に従った投与とはいえず、療養担当規則に従った「療養の給付」に該当しないと結論付けた。 また、症状悪化時に対応する予定であった旨の主張は添付文書の記載に基づかず、地域の特殊性の主張についても診療所で2回目投与をすれば足り患者も近隣居住であった事実を踏まえ採用せず、過去に被告が1日1回投与を認めていた点も単なる目視審査の見落としにすぎず従前の取扱いが添付文書違反を正当化するものではないとして、いずれの主張も排斥した。 本判決は、保険診療における医薬品投与について、添付文書記載の用法・用量への厳格な遵守が療養担当規則適合性の判断基準となることを明示した点で、保険医療実務上重要な意義を有する。