AI概要
【事案の概要】 原告はウェブサーバ提供事業者、被告は写真家である。氏名不詳者が被告の撮影した写真を複製・改変し、原告のサーバ上の2つのウェブサイト(侵害サイトA2・B2)で公表したため、被告は平成28年、著作権(複製権・公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権・同一性保持権)侵害による損害賠償請求権行使のため、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき原告に対し発信者情報の開示を求めて札幌地裁に提訴(本件前訴)。札幌地裁は平成30年、(1)侵害サイトB2発信者のメールアドレス、(2)侵害サイトA2発信者のIPアドレス・タイムスタンプ、(3)同発信者のメールアドレスの開示を命じ、控訴審・上告審を経て確定した。原告は控訴審で(2)は保存期間経過により消去済みと主張したが、自白の撤回に当たるとして排斥された。 確定後、原告は平成30年12月21日に(1)(3)を被告に開示したが、(2)は開示しなかったため、被告は令和元年に間接強制を申立て、札幌地裁は1日1万円の間接強制金の支払を命じる決定をした。これに対し原告は、(1)(3)は履行済みであり、(2)の開示を命じる部分に基づく強制執行は権利濫用であるとして、本件請求異議訴訟を提起した。 【争点】 (1) (1)(3)の開示請求権が既に消滅したか(請求異議事由該当性)。 (2) (2)の開示を命じる確定判決に基づく強制執行が権利濫用となるか。特に、間接強制金の累積が被告の得るべき損害賠償相当額を著しく超える場合の評価。 【判旨】 札幌地裁民事第5部は、以下のとおり判示し、本件前訴判決中(1)(3)部分全部及び(2)部分のうち60万円を超える部分につき強制執行を許さないとした。 (1)(3)については事実審口頭弁論終結後に開示により請求権が消滅したとして、請求異議事由を認めた。 (2)については、最判昭和37年5月24日を引用し、確定判決に基づく強制執行であっても当該権利行使が権利濫用となるときは請求異議により執行力の排除を求め得るとした上、強制執行による処分が実現されるべき権利の内容を著しく超過し債務者に過大な負担をもたらす場合に権利濫用となると判示。プロバ責法4条1項の発信者情報開示請求権は損害賠償による金銭的満足という終局的目的達成の手段であるところ、本件写真は侵害サイトA2中1か所で公表されたにすぎず、被告主張を前提としても得られる損害賠償額は著作権法114条3項相当額10万8000円及び慰謝料10万円の計20万8000円にとどまる。他方、開示請求権は非代替的作為請求権で間接強制によるほかないところ、原告が消去済みと主張し続けており任意開示は期待できず、間接強制金が半永久的に累積する状況にある。また経由プロバイダのアクセスログ保存期間(一般6か月、例外1年程度)を考慮すると、控訴審口頭弁論終結から1年以上経過した現時点では、仮に(2)が開示されても発信者特定の可能性は極めて低く、開示を受ける必要性にも疑問がある。これら諸事情を総合考慮し、間接強制金が60万円を超える場合は権利濫用となるとして、60万円を超える部分の強制執行を不許とした。 本判決は、確定判決に基づく間接強制であっても、実現される権利の内容(損害賠償見込額)に比して間接強制金が著しく過大となり、かつ任意履行が期待できず累積が半永久化する事案では、強制執行の一部が権利濫用として排斥されうることを示した点で、発信者情報開示の執行実務に重要な指針を与えるものである。